裁判例の読み方

法律実務を扱う上で,過去の裁判例の理解及び検討は必要不可欠です。

 

日本法において,過去の裁判例は法源とはなりませんので,先例拘束性の原理はもちません。

 

しかしながら,民事訴訟において,最高裁判所の判例・大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例と相反する判断をした判決は,上告理由となりえます(民事訴訟法318条1項)。

 

また,法律実務において,上記裁判例に当たらなくても,参考として参照するべき価値のある裁判例であれば,法律の適用判断の重要な判断指標となります。

 

そのため,過去の裁判例の適用範囲を理解・検討することは重要です。

 

判例の適用範囲を考えるにあたり,判例分類を考える必要があります。

 

ある制定法の条件又は効果に係る規定の解釈(法的意義)に関して判断を示したもの,制定法の要件効果を前提に当該事例に対する適用について判断を示したものもあります。

 

そのため,裁判例といっても適用範囲は様々であり,一概に判断することはできません。

 

裁判例の適用範囲について検討するときには,最高裁判所民事判例集などの判例解説やコンメンタール等の条文解説書などを踏まえて,検討することになります。

 

過去の裁判例の分析検討は,学生のときに力を入れて勉強していたのですが,実務に入ってからも研鑽しなければなりません。

 

愛知県弁護士会には図書館などもありますので,期日の合間に勉強することも欠かせません。

下請企業の作業員による元請企業への賠償請求

名古屋も暖かくなってきましたが,まだまだコロナウイルスの影響がなくなりませんね。

 

今回は,労災事故についてご説明いたします。

 

建設現場,工事現場あるいは工場内作業では,下請企業の作業員や派遣会社から派遣されてきた作業員が作業するケースも少なくありません。

 

元請企業の作業現場で作業に従事していた下請企業の作業員が,怪我を負うケースも散見されるところです。

 

下請企業の作業員が,元請企業の作業現場で作業をしている場合において,怪我を負ったときには,元請企業に対して,怪我を負ったことについて損害賠償請求ができるのでしょうか。

 

1 賠償請求の法的根拠

 

従業員が作業中に怪我をした場合において,勤務先企業に賠償請求をするときには,安全配慮義務違反を根拠に賠償請求することが考えられます。

 

賠償請求の法的根拠は,その他にも,使用者責任や工作物責任などもあります。このブログを参照してください。

 

安全配慮義務とは,使用者が,労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をする義務をいい,判例によって認めれた後,労働契約法5条によって使用者の義務として明文化されています。

 

下請企業の作業員が,元請企業に対して,損害賠償請求をするときにも,元請企業に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をすることが多いです。

 

2 元請企業に対して安全配慮義務違反を問えるか

 

元請企業に対する損害賠償請求が認められるためには,安全配慮義務違反を基礎づける法令・通達等の違反の事実が必要です。

 

しかしながら,上記義務違反のみで直ちに損害賠償請求が認められるわけではありません。

 

元請企業と下請企業の作業員との間には,労働契約を締結していないため,契約上の規律はなく,元請企業は下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負わないのではないかと考えられる余地があるからです。

 

すなわち,下請企業の作業員を直接的に指揮・命令するのは,下請企業になります。

 

そのため,下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負う使用者は,元請企業ではなく,下請企業のみではないかという問題点があります。

 

3 最高裁判所の判例

 

最判平成3年4月11日労判590号14頁では,元請企業の造船所においてハンマー打ちの作業に従事していた下請企業の労働者が,職場の騒音によって聴力障害に罹ったとして,元請企業に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした事案において,以下のポイントを指摘して,元請企業に対して安全配慮義務違反を認めました。

 

すなわち,①下請労働者が元請企業の管理する設備・器具等を使用し,②元請企業の指揮監督を受けて稼働し,③作業内容も元請企業の労働者とほぼ同じであったこと等のポイントです。

 

上記判例は事例判例でありますが,直接の契約関係にない元請企業が下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負うことを前提とした事案で意義のある裁判例です。

 

下請企業の作業員の立場としては,上記ポイントを参照しつつ,安全配慮義務違反を問えるかを検討していくことになりますが,上記ポイントを満たさない場合でも,元請企業に対して損害賠償請求をできる場合も少なくありません。

 

労災によって怪我をした場合,その後遺障害によって一生が左右される可能性もあります。

 

そのため,適切な賠償請求をすることが必要不可欠です。

 

労災事故については,経験やノウハウが要求されるので,労災に詳しい弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。

 

感染防止

コロナウイルスが流行っています。

 

幸いにも,現時点までにおいて,私の周りでコロナウイルスに罹った人はいないのですが,予断はできません。

 

コロナウイルスの感染拡大防止のために,事務所内でも,裁判所内でも,弁護士会内でも,厳重な対策がとられています。

 

裁判所では,期日で使われるラウンドテーブルの椅子に座るときは,隣の人と1席以上間隔をあけて座るように指示している裁判所もあります。

 

また,噂では,マスクをつけないと裁判所に入れないという運用をしている裁判所もあるようです。

 

現時点では,コロナウイルスの影響で,予定されていた裁判期日が延期されるというケースは聞いたことがないのですが,この先はそのようなことも考えられるのでしょうか。。。

 

民事事件や刑事事件など,延期できない手続きや期日は少なくありませんので,裁判所の厳重な予防措置も必要なのかもしれません。

 

私が所属する愛知県弁護士会でも,弁護士向けに予定されていた直近の研修はほとんど中止・延期になってしまいました。

 

弁護士会の研修は,他の弁護士や裁判官からのノウハウや経験を聞けることが多く,楽しみにしていた研修もありましたので,残念ですが,やむを得ないと思います。

 

研修がない分,自分で,文献調査や判例調査をする時間に充てています。

 

時間をかけて必要な調査や情報の習得ができる点はありがたいのですが,やはり,他の弁護士の経験を聞くという点には限界があるので,文献調査・判例調査だけではなく,弁護士会の研修参加も重要だと感じます。

作業中の事故など労働災害の損害賠償請求の法的根拠

私は,愛知・岐阜・三重などの東海地方において,工事現場や工場などでの作業中にケガを負った労働者の方から,企業への損害賠償請求について,ご依頼・ご相談を受けることがあります。

 

今回は,作業中にケガを負った労働者が,加害者あるいは勤務先企業等に対する損害賠償請求をする場合の法的根拠について,ご説明いたします。

 

1 法律構成

 

① 不法行為責任・使用者責任

 

他の労働者等第三者に,被災原因について,故意過失がある場合,その第三者は,被害者に対して,不法行為責任を負います。

 

また,被災原因について故意過失のある第三者が,業務中の場合,第三者の指揮監督をする使用者(被害者の上司あるいは会社など)は使用者責任を負います。

 

② 工作物責任

 

労働者が,作業中にケガを負った場合に,ケガの発生が,施設など工作物の装備や設備が不十分であることに起因する場合,当該工作物の占有者や所有者に対して,損害賠償請求をすることができる場合があります。

 

③ 自賠責法第3条に基づく責任

 

車両にひかれたためにケガを負ったなど,車両の運行に起因して事故が発生した場合,車両の運転者に対して,損賠賠償請求をできる場合があります。

 

④ 債務不履行責任

 

当事者間での契約上の義務等や安全配慮義務等の違反がある場合に,企業や所属会社に対して,債務不履行責任として,損害賠償請求ができる可能性があります。

 

2 安全配慮義務について

 

安全配慮義務とは,ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において,当該法律関係の付随的義務として,当事者の一方又は双方が相手方に対して負担する義務をいいます。

 

安全配慮義務は,陸上自衛隊八戸車両整備工場事件判決(最判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁)において,最高裁判所が認めた法律上の義務です。

 

現在は,労働契約法第5条により法律上の根拠として認められています。

 

作業中の事故など労災事故については,証拠資料の収集や賠償請求の組み立てなど専門的な知識と経験が問われる事件です。

 

また,労働事件に詳しい弁護士といっても,残業代請求や労務管理に詳しい弁護士であり,労災事故の経験が十分とは言えない弁護士もいるものと思われます。

 

作業中にケガを負われた被害者の方は,労災事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。

あけましておめでとうございます

新年明けましておめでとうございます。

 

本年もよろしくお願いいたします。

 

弁護士業務について,私の昨年を振り返ると,交通事故に関しての裁判対応が多い年でした。

 

損害賠償請求をする側の代理人(被害者側の代理人)を務めた事件もありますし,他人から損害賠償請求をされた側の代理人(加害者側の代理人)を務めた事件をもあります。

 

愛知・岐阜・三重などの東海地区だけではなく,関東地域での裁判も対応しました。

 

人身損害の裁判では,医療記録等の資料が約4000頁以上ある裁判も複数対応しましたし,1日かけて被害者の方が通院されていた病院の医師を訪問して治療状況をお伺いしたりすることも多数ありました。

 

また,人身損害の裁判だけではなく,物的損害の裁判も対応することもありました。

 

物的損害の裁判では,裁判例や文献を調査検討しながら,1つの証拠をどう用いるか1カ月以上試行錯誤を繰り返した裁判もありました。

 

深夜や早朝に事故現場に行って,現場の調査をしたことも少なくありません。

 

多くの事件に対応する中で,実感しているのは,関係者の方から直接お話をお伺いしたり,事故現場などの現場に足を運ぶことの重要性です。

 

私は,周りの弁護士と比べても,依頼者の方や病院や勤務先会社など関係者の方と直接お会いしたり,事故現場などの現場に足を運ぶことが多いように感じていますが,これらによって得られるものは多いです。

 

例えば,昨今,グーグルマップやグーグルビューなど,ネット上で交通事故の現場を確認できるツールも発達していますが,事故現場に行って初めてわかることも数多くあります。

 

また,関係者の方から直接話を聞くことで,初めてお伺いできるお話もあります。

 

もちろん,このような対応がかえって逆効果になることも稀にありますので,全ての事案でそうしているわけではありませんが。。。

 

 

本年も,交通事故や労災事故について,示談交渉での解決が見込まれる事案だけではなく,調停・裁判になることが予想される事案が複数あります。

 

私が,弁護士になりたての頃,依頼者の方から,丁寧な対応を褒めていただき,「いつまでも初心を忘れず,そのままでいてください」とのお言葉をいただいたことがあります。

 

依頼者の方からかけていただいたこの言葉が,今の私の仕事に対する姿勢の背骨になっています。

 

本年も,この言葉を大切に,仕事をしていきたいと思っています。

 

至らない点もあるかと思いますが,本年もどうぞよろしくお願いいたします。

人身傷害保険②

以前のブログでも説明した人身傷害保険について,もう少し詳細に説明したいと思います。

 

 

1 被害者が人身傷害保険をどのように使うか

 

 

人身傷害保険は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する保険金といえます。

 

 

人身傷害保険は被害者が加入している保険です。

 

 

被害者に一定の過失割合があり,かつ,人身傷害保険への加入がある場合,被害者は,加害者への賠償請求及び自身の人身傷害保険への保険金請求の両方ができることになります。

 

被害者が人身傷害保険に関与する場合,①加害者に賠償請求をした後,人身傷害保険へ保険金請求をする方法(賠償先行),②人身傷害保険金を受け取った後,加害者に賠償請求をする方法(人傷先行)があります。

 

①の賠償先行の場合,人身傷害保険から支払われる保険金額は,人身傷害保険約款に定める「お支払いする保険金」等の規定により決定されることになります。

 

②の人傷先行の場合,加害者への賠償請求において,人身傷害保険金のうちどの範囲を既払額として処理すべきかが問題になります。

 

この問題は,人身傷害保険会社の代位の範囲と裏表の関係にあるため,裁判例では,保険約款に定める「代位」の規定の解釈論として判断がされ,代位の範囲の結果として,既払金の範囲が決まることになります。

 

被害者が人身傷害保険を請求する場合のリーディングケースとして,最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁があります。

 

 

2 最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁について

 

人身傷害保険の保険金を支払った保険会社の代位の範囲について,最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁は,訴訟基準差額説(訴訟で認定された被害者の過失割合に対応する損害額を既払の人身傷害保険金額が上回る場合に限り,その上回る額についてのみ,被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得するという考え方)を採用しています。

 

これは,あくまで②の人身先行の事案ですので,①の賠償先行の事案にはあてはまりません。

 

この考え方を確認したのが,①の賠償先行について判旨した大阪高判平成24年6月7日判タ1389号259頁です。

 

3 現在の人身傷害保険の約款規定について

 

最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁の判断が出た以降,多くの保険会社が人身傷害保険の保険約款を改定し,訴訟基準差額説を前提にした規定に改めています。

 

ただし,人身傷害保険の保険金請求については,保険約款に基づいて請求します。

 

そのため,最判平成24年2月20日判決が採用した訴訟基準差額説が,保険約款上訴訟基準差額説を採用していない場合にも適用されるかどうかについては,裁判例でも判断が分かれるところですから,今後も裁判例を注視する必要があります。

 

特に,東京地裁や名古屋地裁,大阪地裁など交通事故を集中的に扱う専門部がある裁判所の裁判例は,実務への影響も大きいため,目が離せません。

裁判期日の雑感

どのような分野の事案でも,裁判に至るケースというのがあります。

 

このような裁判対応については,弁護士の主要業務といってよいと思います。

 

裁判対応とは,具体的にいうと,相手方と話し合いでの解決ができないときに,やむを得ず,訴訟提起をする,あるいは相手方から訴訟提起をされる場合の,裁判の対応です。

 

民事裁判の期日でどのようなことが行われるかについては,事案の内容にもよりますが,大まかにいえば,期日までに当事者から提出された主張書面や証拠書類の確認と,双方の主張内容の確認,争点の確認,今後の審理の方針のすり合わせなどが行われます。

 

とはいえ,期日においてどの程度の討議ややり取りがされるかについては,事案の内容や裁判官の個性によって,様々です。

 

私が多く扱う交通事故や労災事故についていえば,もちろん事案の内容の違いが大きいとは思いますが,少なからず裁判官の個性による違いもあるのではないかと思います。

 

例えば,裁判官が積極的に当事者双方に主張内容を確認し今後主張や立証してほしいポイントを指示していく,いわば裁判官主導型の裁判官もいます。

 

私が出会ったある裁判官は,1回の期日で,30分以上の時間をかけて,今後の審理の方針や争点の確認の打ち合わせをされた方もいらっしゃいました。

 

他方で,裁判官が積極的に介入するのではなく,主張内容や立証方法について当事者の意向を最大限尊重するという非主導型の裁判官もいらっしゃる気がします。

 

もちろんこれは,当事者双方の主張内容から,争点や今後の審理の方針が明確になっているため,あえて積極的に介入する必要がないからという理由もあります。

 

そのような場合には,淡々と,審理の方針を確認して,10分未満で期日が終わる裁判期日もあります。

 

どのような裁判であっても,私としては,裁判の期日の前日には,記録を読み直して,期日での審理に備えていくことに変わりはありませんが,たくさん裁判をしていくと,様々な裁判官に出会うことができますので,いろんな裁判官がいるなぁと思います。

 

私は名古屋や岐阜の裁判所に行くことが多いですが,地域や地方によって,違いがあるのかなぁと思うことがあります。

人身傷害保険

被害者が交通事故に遭った場合,加害者や加害者加入の保険会社への損害賠償請求をすることが可能です。

 

もっとも,被害者にも落ち度があり,過失がある場合には,加害者へ請求できるのは,損害のうち加害者の過失割合相当分のみになります。

 

そのため,被害者側の過失割合が一定程度ある場合には,加害者への賠償請求によっても十分な賠償を受けられない可能性もあります。

 

このような場合に備えて,被害者側の保険に人身傷害保険の付帯があると,便利です。

 

人身傷害保険は,契約者である被害者に過失があるときでも,その過失割合を考慮することなく,一定額の保険金を支払う保険です。

 

言い換えれば,人身傷害保険は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する保険金といえます。

 

 

被害者に一定の過失割合があり,かつ,人身傷害保険への加入がある場合,被害者は,加害者への賠償請求及び自身の人身傷害保険への保険金請求の両方ができることになります。

 

そのため,少なくとも,裁判をした場合には,損害のうち,加害者過失割合相当分について加害者から賠償金を支払ってもらい,加害者へ請求できない自己過失割合相当部分について,人身傷害保険より支払ってもらう可能性がでてきます。

 

これは,人身傷害保険の保険金を支払った保険会社の代位の範囲について判旨した最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁を踏まえて,保険約款の規定がそのような規定になっている保険会社が多いためです。

 

稀に,インターネットの記事では,人身傷害保険があれば,必ず被害者の過失割合相当部分の支払いが受けられるという記事をみることもありますが,これは適切な見解ではないと考えています。

 

上記最判平成24年2月20日判決は,あくまで,保険約款に定める代位の規定に「保険金請求権者(注:被害者のこと)が他人に損害賠償の請求をすることができる場合には,訴外保険会社は,その損害に対して支払った保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者がその他人に対して有する権利を取得する」という規定がある場合の,約款の解釈についての判断です。

 

そのため,加害者への賠償請求と人身傷害保険の保険金との関係については,あくまで,被害者が加入する人身傷害保険についての保険約款を確認する必要があります。

 

大きなけがを負ったにもかかわらず,被害者側の過失割合が大きいことを理由に,加害者側の任意保険会社から保険金の支払いを拒否されることがありますが,人身傷害保険がある場合には,対応方法が柔軟になります。

 

私が住む愛知県では交通事故が多いですから,人身傷害保険への加入は検討されてみても良いのではないかと思います。

インターネットの知識と弁護士

インターネットなどで情報収集が容易な昨今,周りの人から,弁護士に相談する意味や依頼する意味はあるのかと聞かれることがあります。

 

確かに,知識を提供するという点では,弁護士に相談しなくともインターネットなどで調査できるという面はあると思います。

 

しかし,それでもなお,私個人としては,弁護士に相談するメリットがあるのではないかと考えています(もちろん私が弁護士だからということもありますが,決して営業トークではないです)。

 

例えば,私が多く扱う交通事故や労災事故についても,文献や判例雑誌はたくさんあります。また,インターネットにもたくさん知識があふれています。

 

けれども,知識を知っているだけでは実務では役に立ちません。

 

知識や情報をどのように理解し,個々の事案においてどのように使うかを判断する必要に迫られます。

 

知識や情報はあくまで一般論のものですから,インターネットや雑誌だけでは,目の前にあるケースにおいてその知識や情報がどのような意味をもつのかという答えはかえってきません。

 

そのため,各人で, 知識や情報をどのように理解し,個々の事案においてどのように使うかを判断する必要があります。

 

弁護士に依頼する意味の重要な1つは,まさに,この判断をすることにあると感じています。

 

さらにいえば,1つの事案でも,弁護士が事案の解決のための見通しやポイントなどを説明する場合に,弁護士によって説明の仕方や重点に違いが生じてくることも少なくないように思います。

 

例えば,法律問題に悩む人に,事件の見とおしを説明する場合,専門的な知識や法律をそのまま伝えても意味がありません。その方の事情に即して,法律問題のポイントを具体的に説明する必要があります。

 

 

しかし,1つの事案について,弁護士によって特に大事だと思っているポイントが違うこともあります(ただし,当法人の弁護士は当法人内外で研修をたくさん受け,情報を共有しているため,ポイントや考え方に大きな違いはないように思います。)

 

その場合には,弁護士の考え方の違いから,説明の重点の置き方に違いが生じてきます。

 

これは,一般的な知識を前提に,個々の弁護士が,その事案について,どのような見とおしをもっているか,どのような見立てをしているかの違いといってもいいと思います。

 

一般的な知識は同じでも,弁護士によって,見立ての仕方が変わってくることは珍しくありません。

特に違う法律事務所の弁護士との相談の比較において顕著に感じます。

 

そう考えると,個々の事案を解決するためには,インターネットでの知識だけでは不十分であり,弁護士に相談する意味・依頼する意味があると思います。

 

私自身,愛知県,岐阜県,三重県,福井県などの地域で,これまで数多くの依頼者の方にご依頼をいただいておりましたが,依頼者の方に上手く説明できたこともあれば,依頼者の方にモヤモヤさせてしまったこともあります。

 

依頼者の方に上手く説明できなかったときには,その日一日,悩むことも少なくありません。

 

 

基本の重要性

 

交通事故,労災事故など,依頼者の方に満足していただける解決をするためには,適切な事案対応が必要不可欠です。

 

適切な事案対応のためには,最新の知識や判例に至るまで,深く広く理解する必要があります。

 

しかし,弁護士としてそれ以上に重要な素養として,民法や民事訴訟法など基本的な法律に対する深い理解が必要であると思っています。

 

私自身の自戒にもなりますが,個々の事案の対応にあたっては,民法や民事訴訟法の基本原理に基づいて,議論を整理し,論点を分析し,事案の対応を検討する能力(もちろん経験も)が必要不可欠だからです。

 

例えば,交通事故や労災事故を扱う文献や判例雑誌は数多くありますが,それでも判例の集積や学説の議論が十分とはいえない論点も少なくありません。

 

また,複雑な事件のために,そもそもどのような問題点や論点があるのかの整理から必要となるケースもあります。

 

そのような事案にぶつかったときに,民法や民事訴訟法の基本原理に立ち返って検討することで,解決の突破口を見つけることがあります。

 

さらにいえば,一見複雑な事案でも,実は民法や民事訴訟法の基本的な理解が求められているだけであり,解決は容易であるという事案も少なくありません。

 

 

そのため,私自身の自戒を込めて,弁護士の重要な素養として,民法や民事訴訟法など基本的な法律に対する深い理解が必要不可欠であると思っています。

 

民法や民事訴訟法,刑法などの基本法は,司法試験で勉強する基本科目ですので,弁護士などの法曹人は,学生自体から勉強しています。

 

それでも,専門的な分野を扱う実務において,民法や民事訴訟法の基本原理を踏まえて対応することは,決して容易なことではありません。

 

少なくとも,私自身についていえば,特に弁護士になりたての頃には,民法や民事訴訟法の基本原理に立ち返った対応ができていなかったのではないかと思うこともあります。

 

私は,このような反省を踏まえて,弁護士として仕事をするようになって以降,学生時代以上に学ぶ機会を大事にするようになりました。

 

その結果,今では,事務所内の研修,所属する愛知県弁護士会での研修を積極的に受講し,座学だけではなく,座学では学べない実務知識を習得することを心掛けるようになり,また,休日には図書館などで調べ物や調査などの勉強をするようになりました。

事故と歯牙障害

1 交通事故・労災事故で歯に障害が残ってしまった

 

交通事故や労災事故で歯が複数本欠けてしまったり,折れてしまったがために,今後の生活に大きな影響が起きることがあります。

 

 

私は,名古屋や東海地方などで交通事故や労災事故の相談に数多く対応しておりますが,自転車での事故や業務中の転倒事故などで歯牙障害の障害が残る方も少なくありません。

 

歯は日常生活において不可欠なものですから,適切な賠償金をとる必要がありますが,具体的にどのような賠償金がありえるのでしょうか。

 

今回は歯牙障害について説明いたします。

 

2 後遺障害とは,

 

後遺障害とは,これ以上治療を続けても症状の改善が望めない状態(症状固定)になったときに存在する障害をいいます。

 

症状固定になったときに残った症状が全て後遺障害となるわけではありません。

 

交通事故による後遺障害の認定は,自動車賠償保障法施行令の別表第1及び第2に定めた,後遺障害別等級表に基づいて判断されます。

 

労災事故についても,同様の等級表に基づいて判断されます。

 

そのため,後遺障害が認定されるかどうかは,症状が,別表に定められた等級表に該当するかどうかが重要になります。

 

3 歯に関する後遺障害(歯牙傷害)

 

歯に関する後遺障害については,以下のものがあります。

10級4号 14歯以上に対し,歯科補綴を加えたもの
11級4号 10歯以上に対し,歯科補綴を加えたもの
12級3号 7歯以上に対し,歯科補綴を加えたもの
13級5号 5歯以上に対し,歯科補綴を加えたもの
14級2号  3歯以上に対し,歯科補綴を加えたもの

 

歯科補綴など,難しい表現があるものの,わかりやく説明すると,交通事故や労災事故で現実に喪失したり,著しく歯が欠けた歯の本数が対象になっていきます。

 

4 後遺障害が認定された場合の慰謝料

 

後遺障害が認定された場合,後遺障害慰謝料というものが別途請求できますが,歯に関する後遺障害慰謝料について,裁判基準の目安としては,以下のとおりになります。

10級4号 550万円
11級4号 420万円
12級3号 290万円
13級5号 180万円
14級2号 110万円

 

上記は,あくまで目安額であり,個別的な事情も考慮されることがありますが,歯に関する後遺障害では,上記表のとおり,高額な後遺障害慰謝料が認められる傾向にあります。

 

5 後遺障害逸失利益については注意が必要

 

後遺障害逸失利益は,後遺障害により労働に支障が生じた場合に,その労働能力喪失分を損害として請求するものです。

 

逸失利益は,事故前年の基礎収入×労働能力喪失率という計算方法により計算されます。

 

交通事故の赤本などで掲載されている,後遺障害別等級表・労働能力喪失率⑴という表があり,逸失利益の計算では,後遺障害の等級に従った労働能力喪失率を参考に計算することが多いです。

 

しかしながら,労働能力喪失率は,職業,年齢,後遺障害の部位,程度,事故前後の稼働状況を踏まえて,総合的に判断されます。

 

歯に関する後遺障害の場合には,現実の労働に支障がないと判断され,労働能力喪失率は認定されなかったり,著しく低い喪失率と判断される可能性もあるので,注意が必要です。

 

労災や交通事故で歯に関する後遺障害が残りそうな場合には,一度,弁護士に相談してください。

交通事故・労災事故と成年後見人

私は,愛知・岐阜・三重など東海北陸地域で,交通事故や労災事故の相談に数多く対応しています。

 

事故により重篤な症状が発生した場合,成年後見制度の利用を検討する必要があることがあります。

 

今回は,成年後見制度についてご説明いたします。

 

1 成年後見制度とは

 

成年後見制度とは、認知症や精神障害,交通事故の怪我の影響などによって判断能力が不十分な方々を保護するために、家庭裁判所に申請して,その方々を保護または支援してくれる人(成年後見人)を付ける制度のことをいいます。

 

2 成年後見制度の種類

 

成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があります。

法定後見制度は判断能力が実際に衰えてから行うことができ、任意後見制度は判断能力が衰える前から行うことができます。

 

3 なぜ交通事故で成年後見人が必要なのか

⑴ 法律行為の有効性が認められない場合がある

 

認知症や精神障害,交通事故や労災事故の影響などによって判断能力が不十分な方は,法律上,示談をしたり財産管理をご自身で有効にすることができなくなります。

 

そのため,成年後見人が,判断能力が不十分な方の意思を尊重しつつ,示談をしたり,財産管理をするということが必要になってきます。

 

⑵ 悪徳な相手方に付け込まれないようにするため

 

加害者の側が,判断能力が不十分な方に付け込み,不当に低い賠償金で示談をさせるということも,考えられます。

 

そこで,成年後見人が関与することで,そのようなケースを阻止するということが必要になります。

 

4 成年後見人をつけないで示談をしたためにトラブルになるケースが増えています

 

近年,判断能力が不十分な方に成年後見人をつけないまま,加害者の側と示談をしたために,後から,示談の有効性が争点になり,裁判になるというケースが増えています。

 

そのような裁判の場合,裁判が長期化され,当事者の方の更なる負担が増すことが予想されます。

 

そのため,交通事故や労災事故の当事者が,認知症や精神障害,怪我の影響などによって判断能力が不十分な方々の場合には,成年後見人をつけるべきかどうか,医師や弁護士に相談してください。

 

なお,当法人のホームページの集合写真が新しくなったようです。

弁護士法人心のホームページはこちらです。

後遺障害と労働能力喪失率について

1 はじめに

 

当法人では,交通事故で受傷した,あるいは,職場の工場で作業中に鉄柱が落ちてきた等により被災したという相談を受けることが少なくありません。

 

私自身も,これらのケースの相談に数多く乗り,対応しております。

 

このような事故や被災にあった場合,事故によるけがについて,医療機関等で治療を受けることになります。

 

しかしながら,一定期間治療を受けても,症状が残存することがあります。

 

この残存した症状について,自賠責保険や労災保険での後遺障害の等級認定が認められると,加害者あるいは使用者に対して,後遺障害の賠償請求

ができるのをご存知でしょうか。

 

後遺障害の賠償には,逸失利益と後遺障害慰謝料の2項目があります。

 

今回は,後遺障害逸失利益について,ご説明いたします。

 

2 後遺障害逸失利益について

 

後遺障害が,家事労働や仕事に支障を及ぼし,将来にわたって,労働による収入に影響を及ぼすものと考えられる場合,事故前の年収や仕事への支障の程度をもとに,後遺障害逸失利益を請求できます。

 

後遺障害逸失利益の計算方法は,一般的に,事故前の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除で計算されます。

 

それでは,労働能力喪失率は,どのように計算されるのでしょうか。

 

3 労働能力喪失率の考え方

 

労働能力喪失の低下の程度については,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を総合的に判断して,具体的に判断されます。

 

そして,労働能力喪失率の判断にあたっては,労働省労働基準局長通牒の別表労働能力喪失表が一つの目安になることが多いです。

 

しかしながら,後遺障害逸失利益は仕事への支障による収入力の低下を補填するものですので,仕事の内容上,後遺障害があっても収入力の低下は認められないと反論される場合もあります。

 

他方で,仕事の内容と後遺障害の内容から,等級に応じた労働省労働基準局長通牒の別表労働能力喪失表の喪失率以上の喪失率が認められる可能性もあります。

 

そのため,後遺障害逸失利益は,労働能力喪失率,またそれ以外の労働能力喪失期間や基礎収入の計算方法など,裁判でも争われる問題が多くあります。

 

当法人では,交通事故で受傷した場合,あるいは,職場の工場で作業中に鉄柱が落ちてきて被災したというケースなどのご相談に対応しています。

 

名古屋で,落石や落下事故,プレス機にはさまれたなどの労災事故やや交通事故にあわれた方は,なにかございましたら,いつでもご相談ください。

 

主婦の休業損害について

今日は主婦の休業損害について,ご説明いたします。

 

主婦の休業損害は,とても質問の多い事項ですが,奥が深くすべてを詳細にご説明することはできません。

 

そこで,今回は,簡単にご説明いたします。

 

1 主婦であっても,休業損害を請求できます

 

休業損害とは,傷病の治癒あるいは症状固定までの期間において,就労できないことにより生じる減収についての損害です。

 

休業損害といえば,仕事(会社,アルバイト先など)をしている場合に限られそうですが,そうではありません。

 

主婦のように家族のために家事労働に従事する者の家事労働の制限についても,休業損害の対象となります。

 

家事をしている人が,事故のけがで家事ができない場合,事故の前と同じように家事をするためには,他の家族が自分の生活を犠牲にして代わりに家事を行う,または,家事代行業者に依頼をしなければなりません,

 

すなわち,家族のために家事をしている人は,家族関係であることから金銭による対価支払がされていないにすぎません。

 

家族のために家事をすることは,それ自体,金銭評価の対象になります。

 

したがって,受傷のために家事に従事することができなかった期間について,主婦は休業損害を請求することができるのです。

 

2 主婦の休業損害に関する計算方法

 

休業損害は,1日あたりの基礎収入額に認定休業日数を積算して求めます。

 

家事労働を担う主婦の場合,現金収入がないため,算定の基礎収入額は,女性労働者の平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金額または全年齢別平均賃金)を用います。

 

休業日数については,争いがあるところであり,一概には言えませんが,怪我の内容や通院期間,通院日数を踏まえて決定されます。

 

3 主婦の休業損害に関する注意点

 

家事に従事しつつ,パートタイマーとして働く方,事業収入を得ている方は,実収入部分を加算することなく平均賃金額を基礎収入額として用います。

 

一方,収入が平均賃金額以上のときは,実収入額によって給与所得者あるいは個人事業者として損害額を算定することになります。

 

また,子ども夫婦と同居する親などの「従たる家事従事者」は,現実に分担している家事労働の内容や従事できる労務の程度を考慮して,適宜減額された金額を基礎収入額とします。

 

さらに,男性の家事従事者も「主夫」として休業損害を請求できますが,基礎収入額は女性労働者の平均賃金を用いて算出されることが多いです。

 

詳しくは,当法人の弁護士までお問い合わせください。

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優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故の過失割合

 

弁護士の山田です。

 

今回は,交通事故での過失割合が争われるケースについてご説明いたします。

 

1 想定されるケース

 

優先道路を走行していたAの車が,信号機のない交差点を直進通過した。

すると,非優先道路である横断道路を走るBの車が,一時停止の標識を無視して,交差点に進入してきたため,Aの車とBの車が出会い頭で衝突した。

 

Bは,B自身の落ち度が大きいが,Aにも何らかの落ち度があり,Aにも過失があると主張する。

 

Aに過失はあるのだろうか。

 

2 過失とは

 

「過失」とは,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想でき(事故の予見可能性があったのに),適切な回避行動を取れば事故を回避できたのに(結果の回避可能性があったのに),そのような回避行動を取らなかったために事故が発生した場合の落ち度(注意義務違反)をいいます。

 

逆に言えば,過失がない場合とは,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想して,考えられるすべての回避行動をとっていたのに,交通事故が発生した場合です。

 

端的に言えば,事故を回避することができず,もはや不可抗力の事故と同じ場合の事故です。

 

例えば,信号待ちで車を停止していたところ,後ろから追突された場合,追突を回避する行動はとれないので,追突された側に過失はありません。

 

逆に,一見避けられない事故に見えても,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想して考えられるすべての回避行動をとっていたといえなければ,過失があることになります。

 

例えば,交差点に進入する前に,一時停止を無視して交差点に進入してくる車がいることを予想して,車を最徐行して左右の確認をする,クラクションを鳴らして事故の危険を知らせるなど考えられるすべての方法を取りつくしたといえなければ,事故について過失があると判断される場合があります。

 

3 優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故

 

想定されたケースのように,優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故において,優先道路を走行していた運転者に過失があるのでしょうか。

 

過失割合については,事故ごとにケースバイケースであるため,一義的に決定されるわけではありません。

 

しかしながら,あくまで参考程度にすぎませんが,東京地裁民事交通訴訟研究会が発行する別冊判例タイムズ38の図195によると,基本過失割合として,優先道路を走行していた運転者にも10%の過失があるとしています。

 

これは,優先道路を走行する運転者についても,非優先道路を走行してくる車を発見して車を最徐行するなど結果回避行動をとりえたのではないか,すなわち,優先道路を走行する運転者にも前方不注意義務違反や若干の速度義務違反があるのではないかという想定をしているためです。

 

4 過失割合はあくまでケースバイケース

 

もっとも,上記判例タイムズの見解は,あくまで優先道路を走行する運転者にも前方不注意義務違反や若干の速度義務違反があるのではないかという想定を前提にしているため,絶対的なものではありません。

 

実際に,上記判例タイムズの見解と異なり,優先道路を走行する運転者の過失を認めなかった裁判例もあります。

 

すなわち,名古屋高裁平成22年3月31日判決は,上記想定ケースのような事案において,以下のように判断しています。

 

「交通整理の行われていない交差点において,交差道路が優先道路であるときは,当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(道路交通法36条2項),優先道路を走行する運転者は,非優先道路を走行する運転車両が優先道路を走行する運転車両の進行妨害をする方法で交差点に進入してこないことを前提として進行してよく,前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。

そうすると,優先道路を進行している運転者は,急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において,非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り,非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし,交差点を進行すべき義務はないというべきである。」

 

この裁判例は,あくまで実際に争われた事案に限っての判断であって,優先道路を走行する運転者の過失を一律否定した事案ではありません。

 

しかしながら,過失割合はあくまで個別具体的な事案を前提に判断され,一義的に決まるものではない一例として参考になる裁判例かと思います。

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第三者の過失により賠償額が減額される場合③

名古屋の山田です。

 

前回同様,第三者の過失により賠償額が減額される場合について,説明します。

 

今回は,「身分上・生活関係上一体をなす者」の過失については,被害者本人に過失があるのと同様に,過失相殺の対象とされることについて説明いたしました。

 

それでは,「身分上・生活関係上一体をなす者」とは,具体的にどのような場合を指すのでしょうか。

 

1 「身分上・生活関係上一体をなす者」とは

 

裁判例や学説の多数では,「身分上・生活関係上一体をなす者」について,被害者本人と生計を同一にしている者をいうとされています。

 

わかりやすくいうと,身分関係から家計が同じ関係といえるし,現実の生活でも家計が同じ関係にある者の過失については,被害者本人の過失と同様の扱いをしますよという理解です。

 

それでは,なぜ,このような取り扱いが認められているのでしょうか。

 

このような取り扱いは,ABC間の賠償請求を一挙に解決するためです。

 

このような取り扱いがないと,示談の解決が面倒になってしまうというのが判例の発想です。

 

このような取り扱いがされない場合の解決方法について,イメージされると理解しやすいと思いますので,以下のケースを想定してください。

 

2 想定ケース

 

例えば,夫Bが運転する車と第三者Cが運転する車が衝突した事故で、Cと夫Bとの双方に過失がある場合(Bの過失20%,Cの過失80%)があるとします。

 

この事故により夫Bの車に同乗する妻Aが怪我をした場合に,妻Aの怪我について法律上野責任を負う人は,事故について落ち度のあるBとCの両方ということになります。

 

3 このケースの示談の流れ

 

①すなわち,妻Aが事故で100万円の損害が発生した場合,妻Aは,法律上,Cに対して,合計100万円を請求できます。

 

次に,②妻Aからの請求に応じて100万円を支払ったCは,Bに対して,払いすぎた賠償金の一部を請求できます。

 

これは,妻Aの損害100万円は,BとCの過失割合に応じて負担しましょうねという法理です。

 

例えば,CがAに対して100万円を支払った場合には,Cは,20%の過失割合があるBに対して100万円×20%を請求できます。

 

以上のように,①Cが,Aに100万円を支払った後,②Aに賠償したCがBに対して,賠償の負担を求めるという2段階の手続きになります。

 

しかしながら,BとAが夫婦であり,財布が共通であるならば,最初からCがAに80万円払えばそれですむのではないかというのが判例の発想です。

 

以上から,裁判例や学説の多数では,「身分上・生活関係上一体をなす者」について,被害者本人と生計を同一にしている者をいうとされています。

 

第三者の過失により賠償額が減額される場合②

弁護士の山田です。

 

前回同様,第三者の過失により賠償額が減額される場合について,説明します。

 

前回は,民事上の過失について一般的な説明をしました。

 

今回は,実際の相談されたケースについての回答をいたします。

 

1 相談されたケース

 

妻Aは,夫Bが運転する車の助手席に乗っていた。

 

夫Bの車が,信号機のない交差点にさしかかったとき,夫Bは左右の安全確認をしないまま,交差点を直進走行した。

 

すると,夫Bの右側の横断道路からC車両が猛スピードで交差点に進入してきたため,夫Bの車とCの車が出会い頭で衝突した。Cは当時居眠り運転をしていた。

 

この事故のために,妻Aは,全身を強く打って大怪我をしてしまった。

警察の話では,Bも注意散漫であった点で事故について落ち度があるが,事故当時居眠り運転をしていたCの落ち度が圧倒的に大きいとのことであった。

 

2 質問

 

この場合,大怪我をした妻Aは,Cに対して,治療費や慰謝料の全額の損害賠償の請求ができるでしょうか。

 

仮に,運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときはどうでしょうか。

 

3 相談されたケースについて

 

結論からいえば,妻Aが加害者Cに対して損害賠償請求をする場合に,夫Bの落ち度についても妻Aの過失と同視して,過失相殺がされる可能性があります。

 

すなわち,夫Bに過失が20%ある場合,妻Aは,加害者Cに対して,総損害の100%を請求できるわけではなく,総損害の80%を請求できることにとどまります。

 

ちなみに,この場合,Cに請求できない損害の20%は,夫Bに請求しろという結論になってしまいます。。。。

 

他方で,Aが同乗する車を運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときは,妻Aは,加害者Cに対して,総損害の100%を請求できます。

 

この結論の違いは,妻Aと運転していた人との関係性の相違により,生じるものです。

 

4 被害者本人と身分上・生活関係上一体の者の過失は過失相殺の対象となる

 

このようなケースについて,最判昭和51年3月25日最高裁判所民事判例集30巻2号160頁は,以下のように判旨しています。

 

被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなす関係にある者の過失(被害者側の過失)をも包含するものと解される。

 

したがって、夫Bが妻Aを同乗させて運転する自動車と第三者Cが運転する自動車とが、第三者Cと夫Bとの双方の過失の競合により衝突したため、傷害を負った妻Aが第三者Cに対して損害賠償を請求する場合,ABの婚姻関係が既に破綻しているなど事情がない限り、夫Aの過失を被害者側の過失として斟酌することができる。

 

この裁判例からすると,被害者本人と身分上・生活関係上一体の者の過失は,過失相殺の対象となり,被害者本人に過失がある場合と同様の扱いを受けてしまいます。

 

それでは,「身分上・生活関係上一体の者」とはどのような場合を指すのでしょうか。

 

これは,次回に譲ります。

第三者の過失により賠償額が減額される場合①

愛知県在住の弁護士の山田です。

 

今回は,民事における過失について,説明いたします。

 

例えば,法律相談で以下のようなケースの相談を受けることがあります。

 

前置きになりますが,この回答は長くなってしまいます。

 

そこで,今回は,前提として民事上の過失について一般的な説明をし,ケースについての回答は次回に譲ります。

 

1 相談されたケース

 

妻Aは,夫Bが運転する車の助手席に乗っていた。

 

夫Bの車が,信号機のない交差点にさしかかったとき,夫Bは左右の安全確認をしないまま,交差点を直進走行した。

 

すると,夫Bからみて右側の横断道路からC車両が猛スピードで交差点に進入してきたため,夫Bの車とCの車が出会い頭で衝突した。Cは当時居眠り運転をしていた。

 

この事故のために,妻Aは,全身を強く打って大怪我をしてしまった。

 

警察の話では,Bも注意散漫であった点で事故について落ち度があるが,事故当時居眠り運転をしていたCの落ち度が圧倒的に大きいとのことであった。

 

2 質問

 

この場合,大怪我をした妻Aは,Cに対して,治療費や慰謝料の全額の損害賠償の請求ができるでしょうか。

 

仮に,運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときはどうでしょうか。

 

3 そもそも民事での過失や過失相殺ってなに?

 

「過失」を平たく言うと,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想できたのに,適切な回避行動を取らなかったことについての落ち度をいいます。

 

要するに,交通事故が発生したことについて,一方当事者にも何らかの落ち度があることを「過失」というというイメージでよいかと思います。

 

交通事故について,民事上の損害賠償請求をする際,過失は「過失割合」という用語で出てくることが一般的です。

 

加害者に対して,民事上,損害賠償請求をする場合,加害者に請求できる賠償金は,「総損害×相手方過失割合」となります。

 

例えば,過失割合が被害者:加害者=10:90で,被害者の総損害(治療費や慰謝料など)が100万円の場合,相手方に請求できる賠償金は100万円×90%=90万円となります。これを過失相殺といいます。

 

過失相殺を簡単に説明すると,事故で怪我を負ったために損害が発生したが,事故について被害者にも落ち度がある場合には,被害者の損害は加害者と被害者自身双方の落ち度があって発生したものだから,加害者が全額損害を賠償するというのはアンフェアだよねという理屈です。

 

4 相談されたケースについて

 

事故の被害にあった人自身に事故に落ち度がない場合には,その人自身には過失がなく,加害者に対して,損害の全額を請求できることになるのが原則です。

 

そうすると,相談されたケースの妻Bについては,運転者夫Aに落ち度があったとしても,妻B自身に過失がない以上,加害者Cに損害の全額を賠償請求できることになるという結論に一見なりそうです。

 

がしかし,実は,そうではありません。

 妻Bが加害者Cに対して損害賠償請求をする場合に,夫Aの落ち度についても妻Bの過失と同視して,過失相殺がされる可能性があるのです。

 

この先は,次回に譲ります。

別居中の夫婦間における子供の監護者と子の連れ去りの対応

弁護士の山田です。

 

今日は近年増加している夫婦関係の問題について説明いたします。

 

1 別居中の夫婦間で問題となる子供の監護のケース

 

離婚は成立していないが、離婚を前提にして別居がされた場合に婚姻関係が続いている場合があります。

 

この夫婦間に未成年の子供がいる場合、主に子供を監護する親をどちらにするか決める必要が出てくることがあります。

 

そこで、今回は、①別居中の夫婦間における子供の監護者の決定方法、②離婚していないが別居中の夫婦間において一方の親が子供を連れ去った場合の対応方法について、ご説明いたします。

 

2 別居中の夫婦間における親権者・監護権者

 

子供の監護については、監護教育権(民法820条)として、親権の一内容として位置づけられます。

 

未成年の子については父母の親権に服するので、原則として、父母の婚姻中、親権は父母が共同して行使することになります(民法818条1号)。

そのため、別居の夫婦の場合でも、婚姻関係が継続している場合には、子供に対する監護権については父母が共同して行使することになります。

 

3 別居中の夫婦間での監護者の決定をする場合がある

 

しかしながら、別居の場合の事実上の子どもに対する監護者の取り決めをする必要がある場合も少なくありません。

 

夫婦間で監護者の取り決めの合意がまとまる場合には、その合意に基づいて監護者を取り決めることで足ります。

 

しかしながら、監護者の合意がまとまらない場合には、監護者の指定を求める審判(家事39条・別表2第3項)により、監護者を定めることになります。

 

4 別居中の夫婦での子供の連れ去り

 

すでに述べたとおり、別居の夫婦の場合でも、婚姻関係が継続している場合には、子供に対する監護権については父母が共同して行使することになります。

 

それでは、別居中の夫婦間において、一方の親が、他方の親の下にいる子供を勝手に連れ去ってしまった場合、連れ去った親に対して子供の引き渡しを求めることはできないのでしょうか。

 

結論から言えば、法的手続きにより、子の監護権者の指定及び子の引き渡しを求めることができます。

 

5 子の監護権者の指定及び子の引き渡しを求める法的手続き

 

子の監護権者の指定及び子の引き渡しは、「子の監護に関する処分」にあたり、審判事項とされますので(家事39条・別表第3項)、調停又は審判を申し立てることになります。

 

また、子の引き渡しを求める手続きをとる場合、それが緊急を要する場合も少なくありません。

 

そこで、このような場合には、調停又は審判の確定前に、「婚姻等に関する審判事件を本案とする保全処分」として、子の引き渡しの仮処分を申し立てることも可能です。

事故にあわれた方の家族の慰謝料

まだまだ寒い日が続いていますね。

 

名古屋駅の弁護士の山田です。

 

今日は事故にあわれた方の家族の慰謝料についてご説明いたします。

 

1 交通事故の被害者家族の慰謝料

 

交通事故被害者が死亡したり,あるいは,重篤な症状を負った場合,交通事故被害者家族も,精神的・肉体的苦痛を受けることがあります。

 

このような場合に,交通事故被害者の慰謝料はもちろん,交通事故被害者家族の固有の慰謝料が支払われることがあります。

 

2 交通事故被害者が死亡した場合

 

交通事故被害者が事故により死亡した場合,被害者家族にも固有の慰謝料が支払われることがあります。

 

民法711条では,被害者の父母,配偶者及び子が,固有の慰謝料を請求することを認めています。

 

固有の慰謝料の額について,自賠責保険での支払いの場合には,自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準で定められています。

 

その基準に従うと,請求権者が1人の場合には550万円,2人の場合には650万円,3人以上の場合には750万円となります。被害者に被扶養者がいる場合には,上記金額に200万円が加算されます。

 

他方で,裁判基準での慰謝料交渉をすることも考えられます。

 

裁判基準(弁護士基準)は,今までの裁判例の傾向を踏まえて計算される基準です。

 

計算方法は,通称青本と呼ばれる「交通事故損害額算定基準」(日弁連交通事故相談センター本部)や通称赤本と呼ばれる「民事交通訴訟 損害賠償額算定基準」という本に掲載されています。

 

裁判基準は,過去の裁判例の傾向等を分析して定められたあくまで目安の基準であり拘束力はありませんが,示談交渉や裁判などの法的手続では参考にされる目安基準になります。

 

裁判基準は,一般的に慰謝料は自賠責基準や任意保険基準よりも額が大きくなります。

 

裁判基準では,被害者が死亡した場合には,被害者固有の慰謝料と近親者の慰謝料を合わせた計算になります。

 

赤本を例にすると,被害者が一家の支柱である場合には2800万円,被害者が母親・配偶者の場合には2500万円,その他の場合には2000万円~2500万円が一つの目安になります。

 

3 交通事故被害者が重篤な症状を負った場合の慰謝料

 

交通事故被害者が死亡した場合でなくとも,被害者家族の慰謝料が認められる場合もあります。

 

しかし,判例は,すべての場合に慰謝料を認める立場ではなく,被害者が生命を害された場合に比肩するか,もしくは,生命を害された場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けた場合について認める立場に立っています。

 

この裁判例を踏まえて,実務上は,被害者が死にも比肩するべき重度の後遺障害を負った場合には近親者にも慰謝料の請求を認める扱いがされています。

 

また,裁判例のなかには,障害等級が4級以下の場合でも,後遺障害の内容・程度によっては,近親者の慰謝料を認める例もあります。

 

慰謝料の額については,後遺障害の内容や程度によって判断されるため,定額化された基準はありません。