事故現場の確認

交通事故の事故状況が争いになるときは、できるだけ、事故現場に行って現地を確認するようにしています。

もちろん、事故現場をドライブレコーダーや写真で見ることも有用ですが、現地に行って初めて気付くことも珍しくありません。

例えば、現地に行って初めて駐車場のスペースが狭いことに気付き、それがきっかけで相手方の主張の矛盾点を見つけたこともあります。

現地に行くことは、時間がかかるという負担もありますが、大事にしていきたいと思っています。

複数の賠償義務者に対する債務の免除の効力

 今日は少し難しい話になるかもしれません。
 

 複数の賠償義務者のうち1人と示談する場合に発生しうる論点についてご説明します。

 

 名古屋・岡崎・豊田など愛知県全域・岐阜・三重県内では、仕事中の運転者による交通事故が少なくないため、このような場合にも理屈上問題となります。

1 複数の賠償義務者の関係

1つの交通事故において、1人の被害者に対して、賠償義務を負う賠償義務者が複数存在する場合があります。


例えば、所有者でない者が運転していた車両によって交通事故が発生した場合、車両の運転者と所有者が被害者に対する賠償義務を負います。

このような事案において、被害者が、複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をした後、他の賠償義務者に対して追加の損害賠償請求をすることができるのでしょうか。


これは、共同不法行為者の1人に対する債務の一部免除が他の共同不法行為者に対していかなる効力を及ぼすかという問題ととらえることができます。


2 不真正連帯債務について


複数の賠償義務者が存在する場合、賠償義務者は、被害者に対して「不真正連帯債務」を負うと解されています。

「不真正連帯債務」とは、連帯債務と同じく、数人の債務者が同一内容の給付につき各自独立して全部の給付をなすべき債務を負担し、しかもそのうちの1人(又は数人)が一個の全部の給付をすれば総債務者の債務が消滅する多数当事者の債務であって、民法の連帯債務に属しないものであり、不真正連帯債務については、債権を満足させる事由(弁済・代物弁済・相殺・供託)は絶対的効力を生じるが、それ以外の事由は相対的効力を生じるにとどまるというのが、従来の通説判例です。

3 複数の賠償義務者のうち1人に対する権利放棄(債務免除)の効力


共同不法行為者の1人に対する債務の一部免除が他の共同不法行為者に対して効力を及ぼすかについては、①絶対的効力説(連帯債務者の1人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる旨の旧民法437条が適用され、免除をした相手方の負担部分については、他の債務者に対しても請求できないとする見解)、②相対的効力説(免除の効力は他の債務者に一切及ばないとする見解)、③折衷説があります。


4 裁判例の傾向


最高裁判所の裁判例には、不真正連帯債務には連帯債務の絶対的効力に関する旧民法437条は適用されないとして、絶対的効力説を否定する裁判例もあります(最判昭和48年2月16日民集27巻1号99頁、最判平成6年11月24日裁判集民173号431頁)。


ただし、これらの裁判例は、被害者が他の共同不法者の債務をも免除する意思があったと認められる場合にまで、免除に絶対的効力を認める可能性をも否定する趣旨ではないようにも思われます。


実際、その後の最高裁の裁判例には、共同不法行為者の1人と被害者との間で成立した訴訟上の和解における債務免除の効力について、他の共同不法行為者の残債務をも免除する意思を有していると認められるときには、他の共同不法行為者に対しても、残債務の免除の効力が及ぶことが認めています。


5 まとめ


このように、被害者が、複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をした後、他の賠償義務者に対して追加の損害賠償請求をすることができるのかについては、被害者の意思によることとなります。


したがって、被害者が複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をする場合には、他の賠償義務者への請求に関する疑義を解消するため、他の賠償義務者に対する請求をする意思があるかどうか、あるいは、他の賠償義務者に対する請求をも放棄する意思であるか、いずれの意思を有するかを明示する必要があります。

交通事故の損害賠償請求の仮払仮処分

交通事故の事件を多く扱っていると、一般の弁護士が行わない手続きを扱うことがあります。

 

例えば、交通事故の損害賠償請求の仮払仮処分手続などがその代表例です。

 

仮払仮処分とは、民事保全手続の1つで、交通事故の被害者が、稼働能力を喪失して生活に困窮したり、多額の療養費を要する場合に、加害者や自賠責法3条の運行供用者に対して金員を被害者に支払うように求める処分で、裁判所に申立てをする仮処分手続きです。

 

仮払仮処分は、被害者が申し立てた事情及び加害者側の審尋を踏まえて、裁判所が命令の可否を判断します。

 

交通事故の損害賠償請求の仮払仮処分手続の特徴は、主に以下のとおりです。

 

1点目は、被害者に求められている損害賠償請求権の疎明の程度が高度であるという点です。

 

仮払仮処分は、民事保全手続で求められることが多い、いわゆる担保金の積み立てが求められないことが通例です。

 

そのため、その均衡から、被保全債権である損害賠償請求権の疎明の程度が高く要求されています。

 

2点目は、損害賠償請求権を有するのみでは足らず、仮払仮処分が行われないと生活に困窮を来すといえる状況を疎明する必要がある点です。

 

すなわち、生活の困窮の程度が著しく、自賠責保険への被害者請求(16条請求)等の保険金の受給のみでは当座の生活や療養費用がまかなえないといった事情を疎明することが求められます。

 

このいわゆる保全の必要性については、被害者の配偶者や親族の資産が十分である場合には被害者に不利な事情として斟酌されうる見解が示されているなど、厳格に判断されています。

 

以上の特徴から、交通事故の損害賠償金の仮払仮処分手続は、あまり利用されることのない手続きともいえます。

 

私自身、仮払仮処分手続が認められるケースはかなり限られたケースであるように感じており、利用した件数もわずかです。

 

 

文献調査

 

私は、愛知県(名古屋・岡崎・豊橋など)・岐阜県・三重県・北陸地方・関西地方の交通事故や労災事故を多く扱っています。

 

交通事故や労災事故は、法律実務において、数多くの論点があります。

 

論点の全てが有名な論点とは限らないので、細かな文献調査や判例調査が必要になることも珍しくありません。

 

調査をする場合、始めに論点を扱った裁判例を調査して、裁判例の傾向を把握します。

 

特に、裁判例はその事案に対する判断ですので、裁判例の事案の概要は丁寧に確認します。

 

その後、裁判例の背景にある考え方を確認するために、判例を評釈する文献を調べます。

 

裁判例は、論点について判断を示すにあたって、それ以前の過去の裁判例や当時の学説を踏まえて判断している場合が多いです。

 

そのため、裁判例の調査で終わらず、裁判例の背景を探る文献調査まで行わないと、その裁判例の妥当性を確認できません。

 

文献にも、裁判官の論文を扱ったものから一弁護士が著した文献など様々ですから、実務における参照具合も考慮して調査します。

 

また、文献調査にあたっては、できる限り最新の学説を網羅した専門書を確認するようにしています。

 

古い文献を確認する場合、最新の学説や判例を網羅しておらず、現在の傾向や考え方がわからないからです。

 

ただ、興味深いのは、法理など議論の大元(おおもと)を調べる場合には、最新の文献だけでは不十分で、古い文献にあたってこそわかることも少なくないという点です。

 

これは私の推論ですが、最新の文献は最新の傾向を扱うことに重点があるため、紙面の都合上、議論の大元に丁寧に言及することができないからではないかと思います。

 

言い換えれば、昔の文献は、当時の議論が煮詰まっておらず、議論の大元を素直に抉り出しているためではないかと思うのです。

 

調査においては、最新の文献だけではなく、昔の文献をも調査するなど複眼的な調査が必要だと思うこの頃です。

複数の後遺障害がある場合

 

今日は、複数の後遺障害がある場合の運用についてご説明します。

 

後遺障害の「併合」とは,複数の後遺障害が認められた場合の等級の取り扱いになります。

 

自賠法施行令第2条第1項第3号には,自賠法施行令別表第二に定める後遺障害が2つ以上ある場合の取り扱いについて,以下のとおり規定しています。

 

⑴ 別表第二第5級以上の等級に該当する後遺障害が二つ以上ある場合には,重い方の等級を3級繰り上げる。

 

⑵ 別表第二第8級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合には,重い方の等級を2級繰り上げる。

 

⑶ 別表第二第13級以上の等級に該当する後遺障害が2つ以上ある場合には,重い方の等級を1級繰り上げる

 

⑷ ⑴~⑶以外の場合には,一番重い後遺障害の該当する等級を,2つ以上ある後遺障害の等級とする。

 

併合基準に照らすと,後遺障害の等級が第4級と第5級が認められた場合には,第4級を3級繰り上げて,併合により第1級となります。

 

後遺障害の等級が第7級と第8級が認められた場合には,第7級を2級繰り上げて,併合により第5級となります。

 

後遺障害の等級が第10級と第12級が認められた場合には,第10級を1級繰り上げて,第9級となります。

 

後遺障害の等級が第8級と第13級が認められた場合には,第8級を1級繰り上げて,第7級となります。

 

以上と異なり,第11級と第14級が認められた場合には,第11級のままであり,等級の繰り上げはありません。

 

すなわち,第14級の認定は,他の等級に影響しないので注意が必要です。

 

後遺障害の等級が認定された場合,認定された後遺障害等級に基づいて後遺障害に関する損害を算出することになります。

 

この認定された等級の内容は,後遺障害の逸失利益や慰謝料などに大きく影響していきます。

 

同じ等級でも,認定された後遺障害の内容によって,賠償額が増減される可能性も少なくありません。

 

私は、名古屋を含む愛知県・岐阜県・三重県などの交通事故を扱うことが多いのですが、複数の後遺障害がある被害者の方も少なくありませんので、常にこのようなルールを意識して対応しています。

交通事故で必要となる診断書あれこれ

私が住む名古屋市も寒さが増してきました。

 

寒さが出てくると、風邪に気を付ける必要があります。

 

風邪といえば、お医者様です。

 

交通事故の被害では、お医者に診断書を依頼するなど、お医者様にお願いすることも数多くあります。

 

そこで、今回は、思いつくまま、医師に依頼することが多い診断書をあげていきます。

 

1 交通事故で怪我をした場合には医師の協力が不可欠

 

交通事故で怪我をしたために治療費や慰謝料等の損害が発生した場合,事故の相手方に対して損害賠償請求をすることになります。

 

損害賠償請求をする場合,怪我をした事実や怪我によって損害が発生した事実を示す証拠が必要になります。

 

怪我の症状や治療内容については医学的な事項になりますので,証拠となる書面については,医師に協力してもらうことになります。

 

2 警察に人身事故届けを出すための診断書

 

交通事故で怪我をした場合,警察に対して事故によって怪我をしたことを届けることになります。これをいわゆる人身事故の届出といいます。

 

人身事故の届出をする場合には,病院の医師が作成した診断書を提出する必要がありますので,治療を受けられた病院の医師に診断書を作成してもらう必要があります。

 

3 後遺障害診断書

 

治療を受けても怪我の症状がよくならない状態に至った場合あるいは治療の効果が一時的で症状が一進一退になっている場合には,後遺障害の申請手続きをすることになります。

 

後遺障害の認定は,主に,自動車事故の場合には自賠責保険の審査機関や裁判官が行いますので,病院の主治医ではありません。

 

もっとも,その認定にあたっては,病院の主治医が作成した後遺障害診断書などの医療記録が重要な判断材料になってきます。

 

そのため,後遺障害の手続きをする場合には。主治医に対して後遺障害診断書の作成依頼をすることになります。

 

4 症状に関する意見書

 

相手方との交渉や裁判などの法的手続きにおいて,症状固定時期や後遺障害の内容や程度が争点になってくる場合も珍しくありません。

 

その場合には,怪我の内容や症状,治療状況について,主治医や専門の医師から医学的な意見を述べてもらう意見書を作成していただき,証拠書類として提出することがあります。

 

このように、診断書といっても様々であり、必要となる診断書の種類も豊富です。

 

今回ご説明したもの以外にも診断書の種類はあります。

 

 

自賠責保険の調査

加害者が被害者の人身損害を賠償するための自動車損害保険は,自賠責保険(強制保険)と任意保険の2段階の立て付けになっています。

 

交通事故の被害にあったときに,加害者が自動車損害保険に加入しているかどうかが不明なときがあります。

 

加害者の任意保険会社の加入については,加害者に直接確認する方法が現実的です。

 

他方で,加害者が自賠責保険に加入しているかどうかについては,加害者に直接確認する方法以外にも確認する方法があります。

 

具体的には,交通事故証明書を取り寄せて,自賠責保険の加入歴を確認する方法です。

 

交通事故証明書は,自動車安全運転センターの都道府県方面事務所長が、警察から提供された証明資料に基づき、交通事故の事実を確認したことを証明するために作成する書面です。

 

交通事故証明書には,事故車両の自賠責保険の加入の有無が記載されています。

 

そのため,交通事故証明書の記載を手掛かりに,自賠責保険の加入の有無を確認することが可能です。

 

近年,自動車運転者の中には,任意保険のみならず自賠責保険未加入のまま,車を運転している方も増えてきているようです。

 

そのため,今後,被害者が,加害者の自賠責保険の加入の有無を確認する必要に迫られることも増えてくるかもしれません。

 

加害者が任意保険未加入あるいは自賠責保険すら未加入の場合に,被害者の損害をどのように補てんするかというのは,弁護士に相談するべき事項といえます。特に重傷を負っている場合には,どこから,どのように補償をうけるかというのは重要です。

 

愛知県は交通事故発生件数が多いですので,特に,ホットな話題だと思います。

 

 

代理人としての立場の違いと訴訟活動

私は,交通事故や労災事故をよく扱っています。

 

示談交渉の事件だけではなく,訴訟事件の対応も行っています。

 

例えば,愛知県内だけをみても,名古屋,岡崎,半田など様々な地域の裁判所に係属する事件の対応をしています。

 

損害賠償請求をする側の代理人(被害者側の代理人)を務めている事件もありますし,他方で,他人から損害賠償請求をされた側の代理人(加害者側の代理人)を務めている事件もあります。

 

同種の事故や後遺障害について,被害者側の代理人として対応したこともあれば,加害者側の代理人として対応したこともあります。

 

当然のことではありますが,被害者側であるかあるいは加害者側であるかによって,行うべき訴訟対応の内容は全く異なります。

 

被害者側の代理人として,訴訟対応をする場合,損害賠償請求の主張内容やその根拠となる証拠を積み重ね,裁判官に認めてもらうことが目標となります。

 

他方で,加害者側の代理人の場合,被害者側からの損害賠償請求の主張内容や証拠に対して反論を加え,裁判官に被害者側の損害賠償請求を認めさせないあるいは減額させることが目標となります。

 

私のように,交通事故や労災事故について,両方の立場から様々な事故を扱う弁護士は,決して多数派ではないと思います。

 

両方の立場で対応をする場合,時には,同時期に,同種の重い後遺障害の事故を,両方の立場から対応することもあり,心理的な負担も否めません。

 

しかし,両方の立場を経験すると,被害者側の立場で代理人をする場合でも,相手方の戦略や意図を把握して対応できるので,相手方の対応を予想して,訴訟活動を行うことができます。

 

もちろん,片方の立場のみしか経験していない弁護士でも,相手方の対応を予想して,秀でた訴訟活動を行っている弁護士も少なくありません。

 

しかし,両方の立場で実際に対応しているかどうかは,経験の差として,間違いなく,訴訟活動の充実に影響してくるものではないかと思います。

 

弁護士を選ぶ場合,そういった観点から,弁護士を選ぶのも1つかもしれません。

裁判記録の調査

弁護士の業務において,裁判例の調査検討は,切っても切れない関係にあります。

 

事件についての問題点を調査し,対応方法を検討する方法の1つとして,関連する裁判例の分析は有用です。

 

裁判例の調査というと,判例雑誌や判例検索サイトを用いて,判決書を分析し,検討するという方法が一般的です。

 

他方で,裁判例の調査をする場合に,判決書だけではなく,当事者の主張内容や提出証拠をも検討する必要があるときもあります。

 

裁判所の判決書は,当事者の主張内容や証拠の内容によって顕在化された争点について判断したものになります。

 

そのため,当事者間の主張内容や証拠の内容を検討して初めて裁判例を理解できることもあるからです。

 

民事訴訟法第91条第1項には,何人も,裁判所書記官に対し,訴訟記録の閲覧を請求することができると規定されています。

 

そのため,どなたでも,原則として,訴訟記録の閲覧が可能です。

 

もっとも,訴訟記録の閲覧をするためには,訴訟記録が置かれている裁判所まで行かなければなりません。

 

そのため,遠方の裁判所で審理された訴訟記録など,閲覧のために,相当な負担がかかる場合もあります。

 

また,民事訴訟法第91条には,閲覧が認められない例外事由も規定されており,必ず閲覧ができるというわけでもありません。

 

私についていえば,これまで,名古屋地方裁判所で審理された事件記録を閲覧したことがあります。

 

同じ事務所以外の弁護士の主張書面等を閲覧する機会はないので,色々な点で,参考になります。

 

 

書面による準備手続

コロナウイルスの影響で,オンライン会議などが主流となる企業が増えていると聞きます。

 

法曹業界も,コロナウイルスの影響は避けられず,電話会議やオンラインを利用した裁判期日・打ち合わせが増えているように感じます。

 

しかし,民事訴訟などの裁判手続について,電話やオンラインを利用した期日を導入する場合,一定の制約が生じます。

 

すなわち,民事訴訟などの裁判手続は,民事訴訟法などの法律の規定に従って運用されるため,法律で定めた手続に反する運用は行えないという制約です。

 

弁護士会・裁判所では,コロナウイルスの影響が生じる前から,ウェブ会議など,オンラインを利用した手続の導入を目指した議論がされていましたが,その実現には民事訴訟法の改正が必要になる可能性もあり,現行の民事訴訟法の規定で行えない運用もあります。

 

そのため,コロナウイルスの影響が出た場合において,オンラインや電話を利用した期日の運用が必要になるときには,現行の民事訴訟法の規定の範囲内で行わなければならないという制約が生じます。

 

この課題を解決する方法として,利用されている一例が,書面による準備手続(民事訴訟法175条以下)です。

 

書面による準備手続とは,当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいい,裁判所・当事者双方全員が電話によって期日に参加することを可能とする手続です。

 

民事訴訟法では,書面による準備手続は,当事者が裁判所の遠隔の地にいる等,相当な場合に行えるという要件があり,無制約に行える手続きではありません。

 

そこで,裁判所は,コロナウイルスによる感染を防ぐという事情をもって,上記相当性の要件を満たすと判断し,書面による準備手続を運用しているようです。

 

ただし,書面による準備手続は,準備手続の陳述や証拠調べを行えない等の限界があります。

 

そのため,民事訴訟における審理をすべて電話会議のみで行うことはできず,電話を利用した期日としてはまだまだ問題点があるように感じますが,現行の民事訴訟法の規定のもと工夫された運用方法であると思います。

 

名古屋地方裁判所などでも,電話会議が増えている実感があります。

今後,ますます,民事訴訟の運用に変化が生じると思うと,議論に目が離せません。

無保険車傷害保険

私が住む愛知県は,交通事故の発生件数が少なくありません。

交通事故に遭われた方の中には,加害者が無保険であるというケースもあるようです。

今回は,加害者が無保険車である場合に機能する無保険車傷害保険についてご説明します。

 

1 無保険車傷害保険とは

 

無保険車傷害保険とは,人身事故の被害者が,加害者が対人賠償責任保険(共済)をつけていない,責任保険金額が不十分であった,あるいは,当て逃げ等のために加害者不明の場合などの場合に備えた損害保険であり,被害者の保険です。

 

2 無保険車傷害保険の必要性

 

交通事故の被害者は,原則として,事故の責任のある加害者へ請求することになります。

加害者に賠償責任保険(自賠責保険や任意の対人賠償責任保険)がある場合には,賠償責任保険会社から補償を受けることになります。

他方で,加害者が賠償責任保険に加入していない場合には,加害者本人に請求をしなければなりません。

また,自賠責保険にのみ加入している場合,,自賠責保険の支払金額を超えた損害がある場合には,加害者本人に請求することになります。

加害者本人に十分な資力がない場合には,被害者は十分な補償を受けられません。

そこで,このような場合に,無保険車傷害保険など被害者の保険を使う必要がでてきます。

 

3 無保険車傷害保険の内容

 

無保険車傷害保険は,被保険者の死亡または後遺障害による損害を補償する保険です。

そのため,被害者が単なる傷害しか負っていない場合には,この保険は機能しません。

支払われる保険金額(損害額)は,保険会社の対人賠償責任保険の支払基準に基づいて被害者と保険会社が協議を行って支払額が決定されます。

協議が成立しない場合には訴訟もあり得ますので,無保険車傷害保険の協議をする前に弁護士に相談するとよいかもしれません。

 

なお,当法人は,四日市法律事務所を開設しました。

あけましておめでとうございます

新年明けましておめでとうございます。

 

本年もよろしくお願いいたします。

 

弁護士業務について,私の昨年を振り返ると,交通事故に関しての裁判対応が多い年でした。

 

損害賠償請求をする側の代理人(被害者側の代理人)を務めた事件もありますし,他人から損害賠償請求をされた側の代理人(加害者側の代理人)を務めた事件をもあります。

 

愛知・岐阜・三重などの東海地区だけではなく,関東地域での裁判も対応しました。

 

人身損害の裁判では,医療記録等の資料が約4000頁以上ある裁判も複数対応しましたし,1日かけて被害者の方が通院されていた病院の医師を訪問して治療状況をお伺いしたりすることも多数ありました。

 

また,人身損害の裁判だけではなく,物的損害の裁判も対応することもありました。

 

物的損害の裁判では,裁判例や文献を調査検討しながら,1つの証拠をどう用いるか1カ月以上試行錯誤を繰り返した裁判もありました。

 

深夜や早朝に事故現場に行って,現場の調査をしたことも少なくありません。

 

多くの事件に対応する中で,実感しているのは,関係者の方から直接お話をお伺いしたり,事故現場などの現場に足を運ぶことの重要性です。

 

私は,周りの弁護士と比べても,依頼者の方や病院や勤務先会社など関係者の方と直接お会いしたり,事故現場などの現場に足を運ぶことが多いように感じていますが,これらによって得られるものは多いです。

 

例えば,昨今,グーグルマップやグーグルビューなど,ネット上で交通事故の現場を確認できるツールも発達していますが,事故現場に行って初めてわかることも数多くあります。

 

また,関係者の方から直接話を聞くことで,初めてお伺いできるお話もあります。

 

もちろん,このような対応がかえって逆効果になることも稀にありますので,全ての事案でそうしているわけではありませんが。。。

 

 

本年も,交通事故や労災事故について,示談交渉での解決が見込まれる事案だけではなく,調停・裁判になることが予想される事案が複数あります。

 

私が,弁護士になりたての頃,依頼者の方から,丁寧な対応を褒めていただき,「いつまでも初心を忘れず,そのままでいてください」とのお言葉をいただいたことがあります。

 

依頼者の方からかけていただいたこの言葉が,今の私の仕事に対する姿勢の背骨になっています。

 

本年も,この言葉を大切に,仕事をしていきたいと思っています。

 

至らない点もあるかと思いますが,本年もどうぞよろしくお願いいたします。

人身傷害保険②

以前のブログでも説明した人身傷害保険について,もう少し詳細に説明したいと思います。

 

 

1 被害者が人身傷害保険をどのように使うか

 

 

人身傷害保険は,被害者が被る損害に対して支払われる傷害保険金として,被害者が被る実損をその過失の有無,割合にかかわらず塡補する保険金といえます。

 

 

人身傷害保険は被害者が加入している保険です。

 

 

被害者に一定の過失割合があり,かつ,人身傷害保険への加入がある場合,被害者は,加害者への賠償請求及び自身の人身傷害保険への保険金請求の両方ができることになります。

 

被害者が人身傷害保険に関与する場合,①加害者に賠償請求をした後,人身傷害保険へ保険金請求をする方法(賠償先行),②人身傷害保険金を受け取った後,加害者に賠償請求をする方法(人傷先行)があります。

 

①の賠償先行の場合,人身傷害保険から支払われる保険金額は,人身傷害保険約款に定める「お支払いする保険金」等の規定により決定されることになります。

 

②の人傷先行の場合,加害者への賠償請求において,人身傷害保険金のうちどの範囲を既払額として処理すべきかが問題になります。

 

この問題は,人身傷害保険会社の代位の範囲と裏表の関係にあるため,裁判例では,保険約款に定める「代位」の規定の解釈論として判断がされ,代位の範囲の結果として,既払金の範囲が決まることになります。

 

被害者が人身傷害保険を請求する場合のリーディングケースとして,最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁があります。

 

 

2 最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁について

 

人身傷害保険の保険金を支払った保険会社の代位の範囲について,最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁は,訴訟基準差額説(訴訟で認定された被害者の過失割合に対応する損害額を既払の人身傷害保険金額が上回る場合に限り,その上回る額についてのみ,被害者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得するという考え方)を採用しています。

 

これは,あくまで②の人身先行の事案ですので,①の賠償先行の事案にはあてはまりません。

 

この考え方を確認したのが,①の賠償先行について判旨した大阪高判平成24年6月7日判タ1389号259頁です。

 

3 現在の人身傷害保険の約款規定について

 

最判平成24年2月20日民集66巻2号742頁の判断が出た以降,多くの保険会社が人身傷害保険の保険約款を改定し,訴訟基準差額説を前提にした規定に改めています。

 

ただし,人身傷害保険の保険金請求については,保険約款に基づいて請求します。

 

そのため,最判平成24年2月20日判決が採用した訴訟基準差額説が,保険約款上訴訟基準差額説を採用していない場合にも適用されるかどうかについては,裁判例でも判断が分かれるところですから,今後も裁判例を注視する必要があります。

 

特に,東京地裁や名古屋地裁,大阪地裁など交通事故を集中的に扱う専門部がある裁判所の裁判例は,実務への影響も大きいため,目が離せません。

交通事故・労災事故と成年後見人

私は,愛知・岐阜・三重など東海北陸地域で,交通事故や労災事故の相談に数多く対応しています。

 

事故により重篤な症状が発生した場合,成年後見制度の利用を検討する必要があることがあります。

 

今回は,成年後見制度についてご説明いたします。

 

1 成年後見制度とは

 

成年後見制度とは、認知症や精神障害,交通事故の怪我の影響などによって判断能力が不十分な方々を保護するために、家庭裁判所に申請して,その方々を保護または支援してくれる人(成年後見人)を付ける制度のことをいいます。

 

2 成年後見制度の種類

 

成年後見制度には,法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があります。

法定後見制度は判断能力が実際に衰えてから行うことができ、任意後見制度は判断能力が衰える前から行うことができます。

 

3 なぜ交通事故で成年後見人が必要なのか

⑴ 法律行為の有効性が認められない場合がある

 

認知症や精神障害,交通事故や労災事故の影響などによって判断能力が不十分な方は,法律上,示談をしたり財産管理をご自身で有効にすることができなくなります。

 

そのため,成年後見人が,判断能力が不十分な方の意思を尊重しつつ,示談をしたり,財産管理をするということが必要になってきます。

 

⑵ 悪徳な相手方に付け込まれないようにするため

 

加害者の側が,判断能力が不十分な方に付け込み,不当に低い賠償金で示談をさせるということも,考えられます。

 

そこで,成年後見人が関与することで,そのようなケースを阻止するということが必要になります。

 

4 成年後見人をつけないで示談をしたためにトラブルになるケースが増えています

 

近年,判断能力が不十分な方に成年後見人をつけないまま,加害者の側と示談をしたために,後から,示談の有効性が争点になり,裁判になるというケースが増えています。

 

そのような裁判の場合,裁判が長期化され,当事者の方の更なる負担が増すことが予想されます。

 

そのため,交通事故や労災事故の当事者が,認知症や精神障害,怪我の影響などによって判断能力が不十分な方々の場合には,成年後見人をつけるべきかどうか,医師や弁護士に相談してください。

 

なお,当法人のホームページの集合写真が新しくなったようです。

弁護士法人心のホームページはこちらです。

後遺障害と労働能力喪失率について

1 はじめに

 

当法人では,交通事故で受傷した,あるいは,職場の工場で作業中に鉄柱が落ちてきた等により被災したという相談を受けることが少なくありません。

 

私自身も,これらのケースの相談に数多く乗り,対応しております。

 

このような事故や被災にあった場合,事故によるけがについて,医療機関等で治療を受けることになります。

 

しかしながら,一定期間治療を受けても,症状が残存することがあります。

 

この残存した症状について,自賠責保険や労災保険での後遺障害の等級認定が認められると,加害者あるいは使用者に対して,後遺障害の賠償請求

ができるのをご存知でしょうか。

 

後遺障害の賠償には,逸失利益と後遺障害慰謝料の2項目があります。

 

今回は,後遺障害逸失利益について,ご説明いたします。

 

2 後遺障害逸失利益について

 

後遺障害が,家事労働や仕事に支障を及ぼし,将来にわたって,労働による収入に影響を及ぼすものと考えられる場合,事故前の年収や仕事への支障の程度をもとに,後遺障害逸失利益を請求できます。

 

後遺障害逸失利益の計算方法は,一般的に,事故前の年収×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応する中間利息控除で計算されます。

 

それでは,労働能力喪失率は,どのように計算されるのでしょうか。

 

3 労働能力喪失率の考え方

 

労働能力喪失の低下の程度については,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況等を総合的に判断して,具体的に判断されます。

 

そして,労働能力喪失率の判断にあたっては,労働省労働基準局長通牒の別表労働能力喪失表が一つの目安になることが多いです。

 

しかしながら,後遺障害逸失利益は仕事への支障による収入力の低下を補填するものですので,仕事の内容上,後遺障害があっても収入力の低下は認められないと反論される場合もあります。

 

他方で,仕事の内容と後遺障害の内容から,等級に応じた労働省労働基準局長通牒の別表労働能力喪失表の喪失率以上の喪失率が認められる可能性もあります。

 

そのため,後遺障害逸失利益は,労働能力喪失率,またそれ以外の労働能力喪失期間や基礎収入の計算方法など,裁判でも争われる問題が多くあります。

 

当法人では,交通事故で受傷した場合,あるいは,職場の工場で作業中に鉄柱が落ちてきて被災したというケースなどのご相談に対応しています。

 

名古屋で,落石や落下事故,プレス機にはさまれたなどの労災事故やや交通事故にあわれた方は,なにかございましたら,いつでもご相談ください。

 

主婦の休業損害について

今日は主婦の休業損害について,ご説明いたします。

 

主婦の休業損害は,とても質問の多い事項ですが,奥が深くすべてを詳細にご説明することはできません。

 

そこで,今回は,簡単にご説明いたします。

 

1 主婦であっても,休業損害を請求できます

 

休業損害とは,傷病の治癒あるいは症状固定までの期間において,就労できないことにより生じる減収についての損害です。

 

休業損害といえば,仕事(会社,アルバイト先など)をしている場合に限られそうですが,そうではありません。

 

主婦のように家族のために家事労働に従事する者の家事労働の制限についても,休業損害の対象となります。

 

家事をしている人が,事故のけがで家事ができない場合,事故の前と同じように家事をするためには,他の家族が自分の生活を犠牲にして代わりに家事を行う,または,家事代行業者に依頼をしなければなりません,

 

すなわち,家族のために家事をしている人は,家族関係であることから金銭による対価支払がされていないにすぎません。

 

家族のために家事をすることは,それ自体,金銭評価の対象になります。

 

したがって,受傷のために家事に従事することができなかった期間について,主婦は休業損害を請求することができるのです。

 

2 主婦の休業損害に関する計算方法

 

休業損害は,1日あたりの基礎収入額に認定休業日数を積算して求めます。

 

家事労働を担う主婦の場合,現金収入がないため,算定の基礎収入額は,女性労働者の平均賃金(賃金センサス第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計の全年齢平均賃金額または全年齢別平均賃金)を用います。

 

休業日数については,争いがあるところであり,一概には言えませんが,怪我の内容や通院期間,通院日数を踏まえて決定されます。

 

3 主婦の休業損害に関する注意点

 

家事に従事しつつ,パートタイマーとして働く方,事業収入を得ている方は,実収入部分を加算することなく平均賃金額を基礎収入額として用います。

 

一方,収入が平均賃金額以上のときは,実収入額によって給与所得者あるいは個人事業者として損害額を算定することになります。

 

また,子ども夫婦と同居する親などの「従たる家事従事者」は,現実に分担している家事労働の内容や従事できる労務の程度を考慮して,適宜減額された金額を基礎収入額とします。

 

さらに,男性の家事従事者も「主夫」として休業損害を請求できますが,基礎収入額は女性労働者の平均賃金を用いて算出されることが多いです。

 

詳しくは,当法人の弁護士までお問い合わせください。

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優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故の過失割合

 

弁護士の山田です。

 

今回は,交通事故での過失割合が争われるケースについてご説明いたします。

 

1 想定されるケース

 

優先道路を走行していたAの車が,信号機のない交差点を直進通過した。

すると,非優先道路である横断道路を走るBの車が,一時停止の標識を無視して,交差点に進入してきたため,Aの車とBの車が出会い頭で衝突した。

 

Bは,B自身の落ち度が大きいが,Aにも何らかの落ち度があり,Aにも過失があると主張する。

 

Aに過失はあるのだろうか。

 

2 過失とは

 

「過失」とは,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想でき(事故の予見可能性があったのに),適切な回避行動を取れば事故を回避できたのに(結果の回避可能性があったのに),そのような回避行動を取らなかったために事故が発生した場合の落ち度(注意義務違反)をいいます。

 

逆に言えば,過失がない場合とは,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想して,考えられるすべての回避行動をとっていたのに,交通事故が発生した場合です。

 

端的に言えば,事故を回避することができず,もはや不可抗力の事故と同じ場合の事故です。

 

例えば,信号待ちで車を停止していたところ,後ろから追突された場合,追突を回避する行動はとれないので,追突された側に過失はありません。

 

逆に,一見避けられない事故に見えても,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想して考えられるすべての回避行動をとっていたといえなければ,過失があることになります。

 

例えば,交差点に進入する前に,一時停止を無視して交差点に進入してくる車がいることを予想して,車を最徐行して左右の確認をする,クラクションを鳴らして事故の危険を知らせるなど考えられるすべての方法を取りつくしたといえなければ,事故について過失があると判断される場合があります。

 

3 優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故

 

想定されたケースのように,優先道路と非優先道路が交差する信号機のない交差点での出会い頭事故において,優先道路を走行していた運転者に過失があるのでしょうか。

 

過失割合については,事故ごとにケースバイケースであるため,一義的に決定されるわけではありません。

 

しかしながら,あくまで参考程度にすぎませんが,東京地裁民事交通訴訟研究会が発行する別冊判例タイムズ38の図195によると,基本過失割合として,優先道路を走行していた運転者にも10%の過失があるとしています。

 

これは,優先道路を走行する運転者についても,非優先道路を走行してくる車を発見して車を最徐行するなど結果回避行動をとりえたのではないか,すなわち,優先道路を走行する運転者にも前方不注意義務違反や若干の速度義務違反があるのではないかという想定をしているためです。

 

4 過失割合はあくまでケースバイケース

 

もっとも,上記判例タイムズの見解は,あくまで優先道路を走行する運転者にも前方不注意義務違反や若干の速度義務違反があるのではないかという想定を前提にしているため,絶対的なものではありません。

 

実際に,上記判例タイムズの見解と異なり,優先道路を走行する運転者の過失を認めなかった裁判例もあります。

 

すなわち,名古屋高裁平成22年3月31日判決は,上記想定ケースのような事案において,以下のように判断しています。

 

「交通整理の行われていない交差点において,交差道路が優先道路であるときは,当該交差道路を通行する車両の進行妨害をしてはならないのであるから(道路交通法36条2項),優先道路を走行する運転者は,非優先道路を走行する運転車両が優先道路を走行する運転車両の進行妨害をする方法で交差点に進入してこないことを前提として進行してよく,前方注視義務違反の有無もこのことを前提として判断するのが相当である。

そうすると,優先道路を進行している運転者は,急制動の措置を講ずることなく停止できる場所において,非優先道路から交差点に進入している車両を発見した等の特段の事情のない限り,非優先道路を進行している車両が一時停止をせずに優先道路と交差する交差点に進入してくることを予測して前方注視をし,交差点を進行すべき義務はないというべきである。」

 

この裁判例は,あくまで実際に争われた事案に限っての判断であって,優先道路を走行する運転者の過失を一律否定した事案ではありません。

 

しかしながら,過失割合はあくまで個別具体的な事案を前提に判断され,一義的に決まるものではない一例として参考になる裁判例かと思います。

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第三者の過失により賠償額が減額される場合③

名古屋の山田です。

 

前回同様,第三者の過失により賠償額が減額される場合について,説明します。

 

今回は,「身分上・生活関係上一体をなす者」の過失については,被害者本人に過失があるのと同様に,過失相殺の対象とされることについて説明いたしました。

 

それでは,「身分上・生活関係上一体をなす者」とは,具体的にどのような場合を指すのでしょうか。

 

1 「身分上・生活関係上一体をなす者」とは

 

裁判例や学説の多数では,「身分上・生活関係上一体をなす者」について,被害者本人と生計を同一にしている者をいうとされています。

 

わかりやすくいうと,身分関係から家計が同じ関係といえるし,現実の生活でも家計が同じ関係にある者の過失については,被害者本人の過失と同様の扱いをしますよという理解です。

 

それでは,なぜ,このような取り扱いが認められているのでしょうか。

 

このような取り扱いは,ABC間の賠償請求を一挙に解決するためです。

 

このような取り扱いがないと,示談の解決が面倒になってしまうというのが判例の発想です。

 

このような取り扱いがされない場合の解決方法について,イメージされると理解しやすいと思いますので,以下のケースを想定してください。

 

2 想定ケース

 

例えば,夫Bが運転する車と第三者Cが運転する車が衝突した事故で、Cと夫Bとの双方に過失がある場合(Bの過失20%,Cの過失80%)があるとします。

 

この事故により夫Bの車に同乗する妻Aが怪我をした場合に,妻Aの怪我について法律上野責任を負う人は,事故について落ち度のあるBとCの両方ということになります。

 

3 このケースの示談の流れ

 

①すなわち,妻Aが事故で100万円の損害が発生した場合,妻Aは,法律上,Cに対して,合計100万円を請求できます。

 

次に,②妻Aからの請求に応じて100万円を支払ったCは,Bに対して,払いすぎた賠償金の一部を請求できます。

 

これは,妻Aの損害100万円は,BとCの過失割合に応じて負担しましょうねという法理です。

 

例えば,CがAに対して100万円を支払った場合には,Cは,20%の過失割合があるBに対して100万円×20%を請求できます。

 

以上のように,①Cが,Aに100万円を支払った後,②Aに賠償したCがBに対して,賠償の負担を求めるという2段階の手続きになります。

 

しかしながら,BとAが夫婦であり,財布が共通であるならば,最初からCがAに80万円払えばそれですむのではないかというのが判例の発想です。

 

以上から,裁判例や学説の多数では,「身分上・生活関係上一体をなす者」について,被害者本人と生計を同一にしている者をいうとされています。

 

第三者の過失により賠償額が減額される場合②

弁護士の山田です。

 

前回同様,第三者の過失により賠償額が減額される場合について,説明します。

 

前回は,民事上の過失について一般的な説明をしました。

 

今回は,実際の相談されたケースについての回答をいたします。

 

1 相談されたケース

 

妻Aは,夫Bが運転する車の助手席に乗っていた。

 

夫Bの車が,信号機のない交差点にさしかかったとき,夫Bは左右の安全確認をしないまま,交差点を直進走行した。

 

すると,夫Bの右側の横断道路からC車両が猛スピードで交差点に進入してきたため,夫Bの車とCの車が出会い頭で衝突した。Cは当時居眠り運転をしていた。

 

この事故のために,妻Aは,全身を強く打って大怪我をしてしまった。

警察の話では,Bも注意散漫であった点で事故について落ち度があるが,事故当時居眠り運転をしていたCの落ち度が圧倒的に大きいとのことであった。

 

2 質問

 

この場合,大怪我をした妻Aは,Cに対して,治療費や慰謝料の全額の損害賠償の請求ができるでしょうか。

 

仮に,運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときはどうでしょうか。

 

3 相談されたケースについて

 

結論からいえば,妻Aが加害者Cに対して損害賠償請求をする場合に,夫Bの落ち度についても妻Aの過失と同視して,過失相殺がされる可能性があります。

 

すなわち,夫Bに過失が20%ある場合,妻Aは,加害者Cに対して,総損害の100%を請求できるわけではなく,総損害の80%を請求できることにとどまります。

 

ちなみに,この場合,Cに請求できない損害の20%は,夫Bに請求しろという結論になってしまいます。。。。

 

他方で,Aが同乗する車を運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときは,妻Aは,加害者Cに対して,総損害の100%を請求できます。

 

この結論の違いは,妻Aと運転していた人との関係性の相違により,生じるものです。

 

4 被害者本人と身分上・生活関係上一体の者の過失は過失相殺の対象となる

 

このようなケースについて,最判昭和51年3月25日最高裁判所民事判例集30巻2号160頁は,以下のように判旨しています。

 

被害者の過失には、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなす関係にある者の過失(被害者側の過失)をも包含するものと解される。

 

したがって、夫Bが妻Aを同乗させて運転する自動車と第三者Cが運転する自動車とが、第三者Cと夫Bとの双方の過失の競合により衝突したため、傷害を負った妻Aが第三者Cに対して損害賠償を請求する場合,ABの婚姻関係が既に破綻しているなど事情がない限り、夫Aの過失を被害者側の過失として斟酌することができる。

 

この裁判例からすると,被害者本人と身分上・生活関係上一体の者の過失は,過失相殺の対象となり,被害者本人に過失がある場合と同様の扱いを受けてしまいます。

 

それでは,「身分上・生活関係上一体の者」とはどのような場合を指すのでしょうか。

 

これは,次回に譲ります。

第三者の過失により賠償額が減額される場合①

愛知県在住の弁護士の山田です。

 

今回は,民事における過失について,説明いたします。

 

例えば,法律相談で以下のようなケースの相談を受けることがあります。

 

前置きになりますが,この回答は長くなってしまいます。

 

そこで,今回は,前提として民事上の過失について一般的な説明をし,ケースについての回答は次回に譲ります。

 

1 相談されたケース

 

妻Aは,夫Bが運転する車の助手席に乗っていた。

 

夫Bの車が,信号機のない交差点にさしかかったとき,夫Bは左右の安全確認をしないまま,交差点を直進走行した。

 

すると,夫Bからみて右側の横断道路からC車両が猛スピードで交差点に進入してきたため,夫Bの車とCの車が出会い頭で衝突した。Cは当時居眠り運転をしていた。

 

この事故のために,妻Aは,全身を強く打って大怪我をしてしまった。

 

警察の話では,Bも注意散漫であった点で事故について落ち度があるが,事故当時居眠り運転をしていたCの落ち度が圧倒的に大きいとのことであった。

 

2 質問

 

この場合,大怪我をした妻Aは,Cに対して,治療費や慰謝料の全額の損害賠償の請求ができるでしょうか。

 

仮に,運転していたのが,夫Bではなく,妻Aの友人Dであったときはどうでしょうか。

 

3 そもそも民事での過失や過失相殺ってなに?

 

「過失」を平たく言うと,事故という結果が発生する可能性があることをあらかじめ予想できたのに,適切な回避行動を取らなかったことについての落ち度をいいます。

 

要するに,交通事故が発生したことについて,一方当事者にも何らかの落ち度があることを「過失」というというイメージでよいかと思います。

 

交通事故について,民事上の損害賠償請求をする際,過失は「過失割合」という用語で出てくることが一般的です。

 

加害者に対して,民事上,損害賠償請求をする場合,加害者に請求できる賠償金は,「総損害×相手方過失割合」となります。

 

例えば,過失割合が被害者:加害者=10:90で,被害者の総損害(治療費や慰謝料など)が100万円の場合,相手方に請求できる賠償金は100万円×90%=90万円となります。これを過失相殺といいます。

 

過失相殺を簡単に説明すると,事故で怪我を負ったために損害が発生したが,事故について被害者にも落ち度がある場合には,被害者の損害は加害者と被害者自身双方の落ち度があって発生したものだから,加害者が全額損害を賠償するというのはアンフェアだよねという理屈です。

 

4 相談されたケースについて

 

事故の被害にあった人自身に事故に落ち度がない場合には,その人自身には過失がなく,加害者に対して,損害の全額を請求できることになるのが原則です。

 

そうすると,相談されたケースの妻Bについては,運転者夫Aに落ち度があったとしても,妻B自身に過失がない以上,加害者Cに損害の全額を賠償請求できることになるという結論に一見なりそうです。

 

がしかし,実は,そうではありません。

 妻Bが加害者Cに対して損害賠償請求をする場合に,夫Aの落ち度についても妻Bの過失と同視して,過失相殺がされる可能性があるのです。

 

この先は,次回に譲ります。