代理人としての立場の違いと訴訟活動

私は,交通事故や労災事故をよく扱っています。

 

示談交渉の事件だけではなく,訴訟事件の対応も行っています。

 

例えば,愛知県内だけをみても,名古屋,岡崎,半田など様々な地域の裁判所に係属する事件の対応をしています。

 

損害賠償請求をする側の代理人(被害者側の代理人)を務めている事件もありますし,他方で,他人から損害賠償請求をされた側の代理人(加害者側の代理人)を務めている事件もあります。

 

同種の事故や後遺障害について,被害者側の代理人として対応したこともあれば,加害者側の代理人として対応したこともあります。

 

当然のことではありますが,被害者側であるかあるいは加害者側であるかによって,行うべき訴訟対応の内容は全く異なります。

 

被害者側の代理人として,訴訟対応をする場合,損害賠償請求の主張内容やその根拠となる証拠を積み重ね,裁判官に認めてもらうことが目標となります。

 

他方で,加害者側の代理人の場合,被害者側からの損害賠償請求の主張内容や証拠に対して反論を加え,裁判官に被害者側の損害賠償請求を認めさせないあるいは減額させることが目標となります。

 

私のように,交通事故や労災事故について,両方の立場から様々な事故を扱う弁護士は,決して多数派ではないと思います。

 

両方の立場で対応をする場合,時には,同時期に,同種の重い後遺障害の事故を,両方の立場から対応することもあり,心理的な負担も否めません。

 

しかし,両方の立場を経験すると,被害者側の立場で代理人をする場合でも,相手方の戦略や意図を把握して対応できるので,相手方の対応を予想して,訴訟活動を行うことができます。

 

もちろん,片方の立場のみしか経験していない弁護士でも,相手方の対応を予想して,秀でた訴訟活動を行っている弁護士も少なくありません。

 

しかし,両方の立場で実際に対応しているかどうかは,経験の差として,間違いなく,訴訟活動の充実に影響してくるものではないかと思います。

 

弁護士を選ぶ場合,そういった観点から,弁護士を選ぶのも1つかもしれません。

裁判記録の調査

弁護士の業務において,裁判例の調査検討は,切っても切れない関係にあります。

 

事件についての問題点を調査し,対応方法を検討する方法の1つとして,関連する裁判例の分析は有用です。

 

裁判例の調査というと,判例雑誌や判例検索サイトを用いて,判決書を分析し,検討するという方法が一般的です。

 

他方で,裁判例の調査をする場合に,判決書だけではなく,当事者の主張内容や提出証拠をも検討する必要があるときもあります。

 

裁判所の判決書は,当事者の主張内容や証拠の内容によって顕在化された争点について判断したものになります。

 

そのため,当事者間の主張内容や証拠の内容を検討して初めて裁判例を理解できることもあるからです。

 

民事訴訟法第91条第1項には,何人も,裁判所書記官に対し,訴訟記録の閲覧を請求することができると規定されています。

 

そのため,どなたでも,原則として,訴訟記録の閲覧が可能です。

 

もっとも,訴訟記録の閲覧をするためには,訴訟記録が置かれている裁判所まで行かなければなりません。

 

そのため,遠方の裁判所で審理された訴訟記録など,閲覧のために,相当な負担がかかる場合もあります。

 

また,民事訴訟法第91条には,閲覧が認められない例外事由も規定されており,必ず閲覧ができるというわけでもありません。

 

私についていえば,これまで,名古屋地方裁判所で審理された事件記録を閲覧したことがあります。

 

同じ事務所以外の弁護士の主張書面等を閲覧する機会はないので,色々な点で,参考になります。

 

 

書面による準備手続

コロナウイルスの影響で,オンライン会議などが主流となる企業が増えていると聞きます。

 

法曹業界も,コロナウイルスの影響は避けられず,電話会議やオンラインを利用した裁判期日・打ち合わせが増えているように感じます。

 

しかし,民事訴訟などの裁判手続について,電話やオンラインを利用した期日を導入する場合,一定の制約が生じます。

 

すなわち,民事訴訟などの裁判手続は,民事訴訟法などの法律の規定に従って運用されるため,法律で定めた手続に反する運用は行えないという制約です。

 

弁護士会・裁判所では,コロナウイルスの影響が生じる前から,ウェブ会議など,オンラインを利用した手続の導入を目指した議論がされていましたが,その実現には民事訴訟法の改正が必要になる可能性もあり,現行の民事訴訟法の規定で行えない運用もあります。

 

そのため,コロナウイルスの影響が出た場合において,オンラインや電話を利用した期日の運用が必要になるときには,現行の民事訴訟法の規定の範囲内で行わなければならないという制約が生じます。

 

この課題を解決する方法として,利用されている一例が,書面による準備手続(民事訴訟法175条以下)です。

 

書面による準備手続とは,当事者の出頭なしに準備書面の提出等により争点及び証拠の整理をする手続をいい,裁判所・当事者双方全員が電話によって期日に参加することを可能とする手続です。

 

民事訴訟法では,書面による準備手続は,当事者が裁判所の遠隔の地にいる等,相当な場合に行えるという要件があり,無制約に行える手続きではありません。

 

そこで,裁判所は,コロナウイルスによる感染を防ぐという事情をもって,上記相当性の要件を満たすと判断し,書面による準備手続を運用しているようです。

 

ただし,書面による準備手続は,準備手続の陳述や証拠調べを行えない等の限界があります。

 

そのため,民事訴訟における審理をすべて電話会議のみで行うことはできず,電話を利用した期日としてはまだまだ問題点があるように感じますが,現行の民事訴訟法の規定のもと工夫された運用方法であると思います。

 

名古屋地方裁判所などでも,電話会議が増えている実感があります。

今後,ますます,民事訴訟の運用に変化が生じると思うと,議論に目が離せません。

下請企業の作業員による元請企業への賠償請求

名古屋も暖かくなってきましたが,まだまだコロナウイルスの影響がなくなりませんね。

 

今回は,労災事故についてご説明いたします。

 

建設現場,工事現場あるいは工場内作業では,下請企業の作業員や派遣会社から派遣されてきた作業員が作業するケースも少なくありません。

 

元請企業の作業現場で作業に従事していた下請企業の作業員が,怪我を負うケースも散見されるところです。

 

下請企業の作業員が,元請企業の作業現場で作業をしている場合において,怪我を負ったときには,元請企業に対して,怪我を負ったことについて損害賠償請求ができるのでしょうか。

 

1 賠償請求の法的根拠

 

従業員が作業中に怪我をした場合において,勤務先企業に賠償請求をするときには,安全配慮義務違反を根拠に賠償請求することが考えられます。

 

賠償請求の法的根拠は,その他にも,使用者責任や工作物責任などもあります。このブログを参照してください。

 

安全配慮義務とは,使用者が,労働者の生命・身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう,必要な配慮をする義務をいい,判例によって認めれた後,労働契約法5条によって使用者の義務として明文化されています。

 

下請企業の作業員が,元請企業に対して,損害賠償請求をするときにも,元請企業に対して安全配慮義務違反を理由に損害賠償請求をすることが多いです。

 

2 元請企業に対して安全配慮義務違反を問えるか

 

元請企業に対する損害賠償請求が認められるためには,安全配慮義務違反を基礎づける法令・通達等の違反の事実が必要です。

 

しかしながら,上記義務違反のみで直ちに損害賠償請求が認められるわけではありません。

 

元請企業と下請企業の作業員との間には,労働契約を締結していないため,契約上の規律はなく,元請企業は下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負わないのではないかと考えられる余地があるからです。

 

すなわち,下請企業の作業員を直接的に指揮・命令するのは,下請企業になります。

 

そのため,下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負う使用者は,元請企業ではなく,下請企業のみではないかという問題点があります。

 

3 最高裁判所の判例

 

最判平成3年4月11日労判590号14頁では,元請企業の造船所においてハンマー打ちの作業に従事していた下請企業の労働者が,職場の騒音によって聴力障害に罹ったとして,元請企業に対して安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求をした事案において,以下のポイントを指摘して,元請企業に対して安全配慮義務違反を認めました。

 

すなわち,①下請労働者が元請企業の管理する設備・器具等を使用し,②元請企業の指揮監督を受けて稼働し,③作業内容も元請企業の労働者とほぼ同じであったこと等のポイントです。

 

上記判例は事例判例でありますが,直接の契約関係にない元請企業が下請企業の作業員に対して安全配慮義務を負うことを前提とした事案で意義のある裁判例です。

 

下請企業の作業員の立場としては,上記ポイントを参照しつつ,安全配慮義務違反を問えるかを検討していくことになりますが,上記ポイントを満たさない場合でも,元請企業に対して損害賠償請求をできる場合も少なくありません。

 

労災によって怪我をした場合,その後遺障害によって一生が左右される可能性もあります。

 

そのため,適切な賠償請求をすることが必要不可欠です。

 

労災事故については,経験やノウハウが要求されるので,労災に詳しい弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。