複数の賠償義務者に対する債務の免除の効力

 今日は少し難しい話ですが、複数の賠償義務者のうち1人と示談する場合に発生しうる論点についてご説明します。

 名古屋・岡崎・豊田など愛知県全域・岐阜・三重県内では、仕事中の運転者による交通事故が少なくないため、このような場合にも理屈上問題となります。

1 複数の賠償義務者の関係

 1つの交通事故において、1人の被害者に対して、賠償義務を負う賠償義務者が複数存在する場合があります。

 例えば、所有者でない者が運転していた車両によって交通事故が発生した場合、車両の運転者と所有者が被害者に対する賠償義務を負います。

 このような事案において、被害者が、複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をした後、他の賠償義務者に対して追加の損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 これは、共同不法行為者の1人に対する債務の一部免除が他の共同不法行為者に対していかなる効力を及ぼすかという問題ととらえることができます。

2 不真正連帯債務について

 複数の賠償義務者が存在する場合、賠償義務者は、被害者に対して「不真正連帯債務」を負うと解されています。

 「不真正連帯債務」とは、連帯債務と同じく、数人の債務者が同一内容の給付につき各自独立して全部の給付をなすべき債務を負担し、しかもそのうちの1人(又は数人)が一個の全部の給付をすれば総債務者の債務が消滅する多数当事者の債務であって、民法の連帯債務に属しないものであり、不真正連帯債務については、債権を満足させる事由(弁済・代物弁済・相殺・供託)は絶対的効力を生じるが、それ以外の事由は相対的効力を生じるにとどまるというのが、従来の通説判例です。

3 複数の賠償義務者のうち1人に対する権利放棄(債務免除)の効力

 共同不法行為者の1人に対する債務の一部免除が他の共同不法行為者に対して効力を及ぼすかについては、①絶対的効力説(連帯債務者の1人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる旨の旧民法437条が適用され、免除をした相手方の負担部分については、他の債務者に対しても請求できないとする見解)、②相対的効力説(免除の効力は他の債務者に一切及ばないとする見解)、③折衷説があります。

4 裁判例の傾向

 最高裁判所の裁判例には、不真正連帯債務には連帯債務の絶対的効力に関する旧民法437条は適用されないとして、絶対的効力説を否定する裁判例もあります(最判昭和48年2月16日民集27巻1号99頁、最判平成6年11月24日裁判集民173号431頁)。

 ただし、これらの裁判例は、被害者が他の共同不法者の債務をも免除する意思があったと認められる場合にまで、免除に絶対的効力を認める可能性をも否定する趣旨ではないようにも思われます。

 実際、その後の最高裁の裁判例には、共同不法行為者の1人と被害者との間で成立した訴訟上の和解における債務免除の効力について、他の共同不法行為者の残債務をも免除する意思を有していると認められるときには、他の共同不法行為者に対しても、残債務の免除の効力が及ぶことが認めています。

5 まとめ

 このように、被害者が、複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をした後、他の賠償義務者に対して追加の損害賠償請求をすることができるのかについては、被害者の意思によることとなります。

 したがって、被害者が複数の賠償義務者のうち1人との間で権利放棄を含む示談をする場合には、他の賠償義務者への請求に関する疑義を解消するため、他の賠償義務者に対する請求をする意思があるかどうか、あるいは、他の賠償義務者に対する請求をも放棄する意思であるか、いずれの意思を有するかを明示する必要があります。