名古屋の弁護士の山田です。
前回は交通事故の賠償保険のお話をいたしました。
今回は,労災保険と交通事故についてご説明いたします。
1 通勤中の交通事故でも労災を使える
労災保険(労働者災害補償保険)は、労働者が業務中や通勤途中に負傷したり病気になったり障害が残ったり死亡したりした際に、労働災害を認定して補償をしてもらえる保険のことです。
労災保険が利用できる場合としては,業務中の事故(業務災害)と自宅と職場の通勤途中の事故(通勤災害)があります。
そのため,交通事故が,業務中の事故(業務災害),あるいは,自宅と職場の通勤途中の事故(通勤災害)の場合には,労災保険を利用できます。
もっとも,通勤途中の交通事故の場合でも,事故の場所や時間によっては認められない可能性もあります。
たとえば,会社に向かう途中や帰宅途中に,どこかに立ち寄って別の私的な用事をしていた場合などには、労災とは認定されない可能性があります。
なぜなら,労災認定の要件として,「自宅と会社との間を合理的な経路や方法で往復していた」ときの交通事故であることが必要であるためです。
2 労災の申請手続
労災保険を利用したい場合には、管轄の労働基準監督署に宛てて、労災の申請をします。
管轄の労基署に連絡をして、必要書類を作成して提出し、労災認定を受けましょう。
労災保険の申請方法について,会社の総務や人事など労災に詳しい担当者や弁護士に確認してみるのも一つです。
3 労災保険と自賠責保険・任意保険との関係
交通事故の場合に,労災保険を使うかどうかは,判断が難しいポイントです。
交通事故後の通院治療には,一般的には,自賠責保険や任意保険を利用することも少なくありません。
そのため,業務中の事故や通勤途中の交通事故の場合でも,労災保険を利用しないケースもあります。
もっとも,以下のケースの場合には,労災保険を使った方がよいケースになります。
4 相手が任意保険に加入していない場合
自賠責保険の場合、補償される金額の上限が決まっていて,例えば,傷害事故の場合は120万円までという上限額があります。
治療費がかさんでくると、120万円では足りないことがありますが,この場合,120万円を超えた場合は,被害者が一度立て替えた上で,相手方に直接請求しなければならないことがあります。
他方で,労災保険では、特に上限の金額があるというわけではありませんので,怪我によってかかった治療費を、全額負担してもらうことができます。
そのため、労災保険を利用すると、相手方が任意保険に加入していない場合でも,全額の治療費の支給を受けることができます。
また,上記の理由から,相手方が自賠責保険にすら加入していない場合にも,労災保険を使うとよいと思います。
5 被害者にも一定の過失がある場合
自賠責保険の場合,自分の過失が7割以上になると、重過失減額が行われます。
また,自賠責保険の120万円を超えて,任意保険が使用される場合には,治療費や慰謝料などの損害について過失相殺の対象になります。
他方で,労災保険には重過失減額がありません。
そのため,被害者に一定の過失がある場合には,労災保険を使うとよいケースといえます。
6 交通事故と労災保険については交通事故に詳しい弁護士に相談してください
労災保険と交通事故について,インターネットでもよく見かける記事ですし,被害者の方の関心も強い内容になります。
他方で,労災保険を利用するべきケースかどうかは,個別具体的状況を踏まえる必要がありますので,インターネットのサイトだけでは,十分な判断材料になりません。
そのため,労災保険を利用する場合については,交通事故に詳しい弁護士に相談することをお勧めします。